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ゴロチマニア 

日比日向多が勝手に稲垣吾郎さんを語ってます

稲垣吾郎ドラマ アザーセンス 霊感心理カウンセラー 六条伍銅⑧

 二人は、伍銅の家に着いた。達也はこれから幼児のわいせつサイトをあたる事にした。伍銅はもう少し、カナの心理状態を分析する事にし、二人は分かれた。別れ際に達也が言った。

「新しい情報が入ったら知らせるよ。今日はありがとう」

「他ならぬ達也様の頼みだからな」

 伍銅は少しおどけて答えた。

 

 自宅のカウンセラー室で伍銅はお香を焚いた。祖母がよく自分の部屋で焚いていたが、いつの間にか伍銅も気持ちを集中させたい時に同じ事をするようになっていた。椅子に腰かけ、背もたれに背中を預けて静かに目を閉じた。

 一体、どうするのが良いんだ?僕が選ぶべき道は?カナは自分の運命に抗おうとした。母性を持たぬまま母親になった自分の母を憎んだ。負の連鎖を断ち切れると信じていた。決して自分はそうならないと誓った。しかし結局母親と同じ、娘を苦しめる事しかできなかった自分に腹が立った。カナは真奈を突き落としてはいない。誤って落ちて行く真奈に手を伸ばしたが届かなかった。でも、もうそんな事は今のカナには関係ない。真奈の死は自分のせいだと思っている。不慮の事故だろうと故意の殺人だろうとカナには、真奈が死んだことには違いがなく、自分の刑が軽くなる事なんかは望んでいない。真奈がわいせつな写真を撮られていたことも公にしたくないと思っている。すべてを闇の中に隠して、この事件も自分の事も真奈の事も、すべての人の記憶から消してしまいたいと思っている。この事実を明るみにして一体誰かが救われるだろうか?僕の能力は、何に役立つんだ?カナは聡明な女性だ。もし普通の家庭に産まれ育ったなら、普通に幸せな生活を送れていただろう。それが望まれずに産まれて、劣悪な環境で育った。それはカナの責任ではなく、どうする事も出来ない運命だった。抜け出せない負の連鎖。カナと真奈の魂をどうやって救う事が出来るのだろう?僕の役割とは・・・。抑圧された無意識を開放し、本来の姿を取り戻させる事。そうしない限り苦しみを昇華することが出来ないんだ。たとえどんなに辛い出来事でも、事実を明らかにして心の膿を出し切らないと・・・。僕は深い海の中に沈んだかのように意識を集中させた。

 どのくらい時間が経っただろうか。後は達也からの報告を待つとしよう。その日僕は深い眠りについた。

 

 2日後、達也からわいせつサイトで、貫が投稿されている真奈の画像を見つけたと報告を受けた。僕はカナの初公判に弁護側の証人として出廷する事を伝えた。

稲垣吾郎ドラマ アザーセンス 霊感心理カウンセラー 六条伍銅⑦

 伍銅が見る映像。それは、開かれた心の箱の持ち主が潜在意識の中に押し込んだ出来事をフラッシュメモリーのように、断続的に見える。まるで映画の予告編を見てるような感じである。映像の渦に巻き込まれるような感覚に陥る。カナが去った後でも伍銅はしばらく立ち上がることが出来なかった。どのくらい時間が経過しただろうか。伍銅が達也に向かって口を開いた。

「吉井貫のスマホはカナが叩き壊してすでにS川に捨ててある。そのスマホが見つかってもデータの修復は困難だろう。ただ・・」

「ただ?」

「サイトだ。幼児のわいせつ画像のサイトを調べてくれ。貫は真奈のわいせつ画像で小銭を稼いでいたんだ」

 驚いた達也は思わず椅子から立ち上がった。

「本当か?」

「ああ。まずは僕の家に戻ろう。車の中で説明するよ」

 二人は達也の運転する車で伍銅の居へに向かった。途中、伍銅がカナの深層心理について説明をした。

「カナは、子供の頃多分小学4年生くらいだ。その時母親の男にレイプされている。母親は男を責めるどころか、カナを罵った。娘を女として母親は認識していたんだな。嫉妬だよ。カナは父親のような年齢の男の性的暴力と自分を守ってくれない母親に、激しい憎悪を抱いた。決して、自分は母親のようにはならないと心に誓った。深い心の傷をカナは心の奥底に押し込めた。カナは自分の父親のような年齢の男性に嫌悪感を持つようになった。早く家を出ようと中学を卒業すると家を飛び出した。そして初めて恋をした大学生との間に真奈を身ごもった。結婚はかなわず、カナは悩んだ末シングルマザーの道を選んだ。普通の結婚と平凡な家庭を望んでいたカナだったが、自分にはそんな資格がないんだと思ってしまった。ただ、産まれてくる子にはありったけの愛情を注ごうと決めたんだ。実際、カナは真奈に出来る限りの愛情を注いでいた。それはカナ自身が全く愛情に渇望していた裏返しなんだ。カナは真奈に愛情を注ぐことで、自分の乾いた心を満たしていたんだ。そんな時、吉井貫と出会った。自分より9歳も若い高校生の貫に、母性のような愛情を注いだ。父親のような年齢の男ではない年下の貫には、安心感を感じられたんだ。もちろんカナだって貫との結婚なんかは望んではいなかった。ただ、真奈だけに生きて来た自分が久しぶりに女としての小さな幸せを感じていたんだ。真奈と貫の間でカナの心はゆっくりバランスが崩れかけていた。自分でも気づかないふりをしていても、真奈より貫への気持ちが強くなっていっている自分を憎んだり、さげすんだりカナの心は激しく揺れ動いていたんだ」

 伍銅の話を聞いていた達也が感心したように言った。

「なるほど、それで娘が邪魔になって殺したんだな」

「いや、違うよ」

 人差し指を額に当てて伍銅は話を続けた。

「真奈も子供心に母親の心の動揺には気づいていたんだ。母と娘だから分かる直感的なものだけどね。この揺れ動く母と娘にある重大な出来事が起こったんだ」

「えっ?さっき言っていた画像か?」」

「そうだ・・・。吉井貫が真奈のわいせつな画像をカナに内緒で撮って売っていたんだ。真奈もカナに言えずにいた。言うと母親が困るだろうと察していたんだ。ところがある日、偶然貫のスマホを見たカナがその画像を見つけたんだ」

「それは衝撃だったろうな」

「ああ。カナは最も嫌っていた自分の母親と何も変わらない、同じなんだと絶望した。母親の男にレイプされた過去を思い出し、抑圧されていた感情がカナを苦しめる。今度は自分が愛した男が娘の真奈を辱めている。やりきれなさがカナを襲った。カナは貫と別れるために市営住宅に申し込んだんだ」

「そう言う事か・・・」

 達也は車のハンドルを強く握りしめた。達也はこれまでのカナの事を思い出していた。4階建ての団地の外階段から4歳の少女が転落した。4階の現場には母親のカナが居た。真奈が落ちる瞬間を向かいの団地に住む主婦が目撃していた。子供が落ちてゆくのとカナの伸ばした右手が見えたと証言した。突き落とした手なのかはっきり断言できなかった。状況から子供が誤って落下したか、母親が故意に転落させたかだったが、カナがあっさり自分がやったと自供したのだった。警察にも弁護士の達也にもカナは一切申し開きをしなかった。それが達也に違和感を与えていた。自分が愛情を注いで育てた娘を、なぜ?どこか冷めきり、涙も見せないカナに或る意味怒りさえ覚えた時もあった。カナの本心に触れたくて伍銅に相談したのだった。

稲垣吾郎ドラマ アザーセンス 霊感心理カウンセラー 六条伍銅⑥

 カナの心の箱。伍銅はその箱をまだうすぼんやりとしか確認できないでいた。心の鍵を見つけるどころか、その箱の形さえも見えないでいた。

「吉井さんとはどうして知り合ったんです?」

「・・・忘れました」

「彼がパンを万引きしたと聞きました」

「ふっ」

 ちょっと漏れるような息を吐き、カナの右の口角が少しだけ上がった。そして言葉を続けた。

「ご存知でしたら、聞かなくても良いじゃないですか」

「いろんな人に何度も同じ事を聞かれるのは、もう君も分かってるでしょう?」

 これまで黙っていた達也が言った。

「そうですね・・・、弁護士さん。私の弁護なんて適当にして下さい。貫とは、彼が数回店のパンを万引きしていたのに私が気づいて、ある日店の中を覗いていた彼を問い詰めたんです。最初は『知らない』とか、『金払えば良いんだろう』とか言って私の手を振りほどいて走って逃げてしまったんです。でもその日の夜、店が終わって帰ろうとしたら店の外に彼がいて、万引きの事、認めて謝ってくれたんです。そこで話を色々聞くうちに、だんだん気持ちが近づいて。不思議と年の差を感じなくって・・・」

「彼は何か悩みでも?」

 伍銅が静かに聞いた。その伍銅の言葉に少女のような笑みを浮かべながらカナは話を続けた。

「まあ、よくある思春期の悩みです。妹の方が成績が良くって比べられるとか、母親が見栄っ張りで、子供をアクセサリーのように扱って、自分の気に入りの息子であることを求められるって。ストレスで彼、学校で他の子をネチネチ精神的にいじめてたみたい。貫のせいで学校転校したり、不登校になった子もいたみたい」

「かわいそうに思ったの?」

「どうかなぁ。両親が揃ってて、普通の中流家庭でも心が寂しいってあるんだって思っちゃったのかな。こんな事話したの初めてです」

 不思議と柔らかな空気が流れていた。カナの心の箱が少し形を表して来ているように伍銅は感じていた。

「カナさんのお母さんって、どんな人だったの?」

「母さん?産んでくれただけ、最低の母親」

 穏やかだったカナが吐き捨てるように言った。

「随分お母さんの事であなたはご苦労したみたいですね」

 伍銅の言葉にカナは小さく頷いた。

「男をとっかえひっかえ、話したくない。母の事は・・・」

 中野カナが吉井貫に感じた母性。わが子真奈への母性。母への憎悪。事件はなぜ起きた?スマホはなぜ消えた? スマホの…なんなんだ。伍銅は案じていた。ぼんやりした箱を探り当てるように言葉を口にした。

スマホ、メール、ライン、写真、動画」

 伍銅がスマホに関するワードを言葉にしていた時、カナの顔が青ざめた。その時、伍銅もカナの心の箱を捉えた。薄暗い中で光が灯ったようにカナの心の箱が見えた。手が届くところに箱がある。あともう少しで鍵となるワードが見つかる。多分一つは写真、もう一つ言葉があるはずだ・・・。伍銅がさらに言葉を発しようとした時、カナが叫んだ。

「帰って」

「何を隠しているんです?スマホの中の写真。彼が、吉井貫さんが撮った写真に」

 伍銅の言葉をカナが遮った。

「もう帰って下さい。何も話す事はありません」

「・・・すいません中野さん。あなたを追い詰めるつもりではないんです。僕は、あなたが自分でも説明できない苦しみを、死んだ真奈ちゃんの魂が納得できるようにしたいんです。あなたは自分でも分かっている部分と、抑圧して封じ込めた自我の中でもがいている。いや、もうもがくことさえ諦めている」

「何が分かるの?私の?私は望んでなんかいません。私が刑を受けて、この事件と私の存在が世間から忘れ去られる事、それが私の願いです」

「あなたは、何を押し込めているんです?」

 カナに向けられた言葉のはずだが、伍銅は自分に問いかけた。目をつむり、今見えているカナの心の箱を意識下で両手に持ち集中した。

「カナさん、あなたは何を恐れているんです?自分は母親とは違う。あの女とは違う。娘に愛情を注いでいる。そんなあなたが恋をした。高校生に、年の離れた若い男。後悔したんですか?」

 伍銅の言葉にカナが両手で耳を塞いだ。

「いい加減にして!」

「カナさん!母と同じように恋をした自分に腹が立ったんですか?あの女と同じだと!」

「やめて!!」

 カナが泣き崩れた。その瞬間、心の箱の扉が開いた。鍵はスマホの写真とあの女と同じと言う言葉だった。心の箱が開かれた時、伍銅はその人の出来事を映像で確認することが出来る。そしてそれは余りに悲しい出来事だった。

 

稲垣吾郎ドラマ アザーセンス 霊感心理カウンセラー 六条伍銅⑤

「事件が起きた4階建ての団地って?」

「ああ。現場の団地は市営住宅だが、低所得者や片親世帯などが入所している団地で、中野カナはその団地に先月申し込んでいたんだ。若い男と住むつもりだったんだろうが・・・。何せ、今のアパートは勤め先のパン屋の主人の持ってるアパートだ。高校生の若い男を連れ込んで、店主夫妻からそれとなく注意されていたのが、疎ましくなったんだろうけど」

 達也の話を僕は、立てた左人差し指を額に当てながら聞いていた。人差し指を額に当てるのは僕の癖らしい。

「だいたい、カナと高校生はどうやって知り合ったんだ?」

「はっきりしないんだが、どうも吉井貫が、パンを万引きしたのが切っ掛けらしいんだが。そのことで、カナが貫を問い詰めて、話を聞くうちに親しくなったと」

「その、吉井貫の家庭環境は?何か問題でも?」

「まあ、一般的な家庭だ。父親はサラリーマンで母親は保育士でパート。2歳下の妹がいる。貫の高校は市立Y高校でレベルは中の下。これまで学校で問題行動はない。時折高校へ遅刻する程度だった。ここ3か月はカナのアパートに週3回くらい泊まっている。親も何となく年上の女と付き合ってるんじゃないかとは思っていたようだが、今の時代携帯持ってるし、家に帰って来なくても学校には行ってるしで、あまり深く考えていなかったようだ。今回の事件も、女が勝手にやった事だとしている。まあ、実際事故が起きた時貫は学校に居たからね」

「で、スマホが無いんだっけ?」

「そうなんだ。吉井貫にも任意で警察が事情を聴いた時、すでにスマホがなくなっていたんだ。本人もどこで無くしたか覚えていないらしいんだが、学校の昼休みにカバンからスマホを出そうとしたら無くて、カナのアパートに置き忘れたんだろうと思っていたが、アパートのにも無かったという訳なんだ」

「そんなの携帯会社で位置情報を調べれば?」

「もちろんしたさ。でも位置情報はつかめないんだ。電源が切れているか、充電切れか、壊されているか・・・」

達也はそう言うと、首を左右に小さく振った。

「誰が?カナは?まあ、もちろん知らないと言ってるんだろうけど」

「その通り」

「ところで達也、僕はいつ中野カナに会える?」

 僕の質問にはっと我に返ったように達也が顔を上げた。

「じゃあ、力になってくれるんだな伍銅!」

 僕がうなずくのを見て達也が言った。

「早いほうが良い。実は明日の午後会う予定になっているんだ」

「分かった。お供するよ」

 

 達也が帰った後で、僕は目をつむり一人瞑想していた。一体中野カナはどういう気持ちで娘を突き落としたんだろうか。4階からわが子を突き落とす心境とは、どう言ったものか?殺したかったのか?自分も死のうとしたのか?男と再出発したかったのか?何もかも上手くいかない人生に嫌気が刺したのかも知れない。産まれた時から望まれていない人生。母性の欠如。将来への不安。社会への絶望感。カナの中にはどんな闇が広がっているのだろうか。まずは会ってみるか・・・。カナの心の箱の鍵を見つけられれば良いのだが・・・。

 

 翌日。達也とともに拘置所へ中野カナの面会に行った。

 現れたカナは、グレーのスウェットを着て、セミロングの黒髪は後ろに結ばれていた。化粧っ気のない顔だが顔立ちがはっきりしていて美人なのが分かる。事件のあらましとは全く印象の違う、知的な感じのする美人であることに僕は驚いた。カナも見覚えの無い僕を見て、戸惑った表情を一瞬見せたが、軽く会釈をしてうつむき加減に椅子に腰を下ろした。

「こちら、私の友人で心理カウンセラーの六条さんだ」

 達也が僕を紹介した。

「はい」

 カナの声は小さいがしっかりしていた。抑揚を抑えているようだった。僕は心の声や、その人に起こった出来事を映像の様に感じることが出来る能力のほかに、薄っすらとした霊感も持っている。カナの背後にはどんよりとした、しかし何かを訴えたいとする気配が感じ取れた。僕は直感的にそれは殺された娘の真奈であると確信した。真奈の訴えたい事、それが何か・・。僕は口を開いた。

「カナさん。こんにちは。僕は、真奈さんの魂を救いたい。ねえ、カナさん、吉井貫さんのスマホ、どこにやりました?」

 突然の僕の言葉にカナは驚きの表情をした。

「何の事です?」

「僕は、彼のスマホに秘密が隠されてると思っています。違いますか?あなたが真奈さんを殺すには誰にも理解しがたいような理由が潜んでいるはずです」

 伍銅の声は、澄んだ湖のような静かな響きを持っている。どこか真っすぐ染み渡るような声で、いきなり確信を突いた。伍銅の発言に達也も一瞬驚いたが、伍銅を良く知っている彼は、何もアクションを起こさなかった。動揺を鎮めるようにカナはうつむいたまま、握った両手を見つめてしばし沈黙した。そしてゆっくり口を開いた。

「六条さんですよね。私が娘を殺しました。吉井君は関係ありません。娘が、邪魔になったんです。吉井君と二人っきりになりたいとかではなく、私が子供を育てることが嫌になったんです。とにかく一人に、自由になりたかった。人生リセット出来ると思ったんです。ただ、それだけです。・・・あと、スマホ?私は知りません」

 カナはうつむいたまま、左手で右親指のさかむけをいじりながら答えた。

 

 

稲垣吾郎ドラマ  アザーセンス 霊感心理カウンセラー 六条伍銅④

 自宅の1室を僕のカウンセリング室として使っているのだが、その部屋に沢村を通した。夜の8時を回っていた。今日は朝から僕が講師を務めている桃李学園大学の授業の資料作りで、ずっとこの部屋にほぼこもっていた。 

「忙しいのに悪いな」

 コーヒーをすすると、僕の顔を見ながら沢村が言った。

「いや、ちょっと興味をそそられたから。で?事件のあらましは新聞で読んだけど、達也の気になる事って?」

「まあ彼女、中野カナが殺したのは間違いないんだが、動機がしっくり来ない感じがするんだ。無気力と言うか、それと半同棲の高校生のスマホが見つからないのも気になる」

スマホ・・・?とりあえず順に説明してくれ。女の成育歴や仕事もからめてさ」

 僕の問いに沢村は弁護士らしく、実に分かりやすく時系列に沿って、このまとまりのない疑問とは別に、中野カナについて説明してくれた。

 

 中野カナは千葉県で母明子が高校3年生の時、同級生の男子生徒との間に生まれた。父親である男子生徒は入籍を拒否。その男子生徒の親が、明子に息子はそそのかされたのだとして結婚はおろか、勝手に明子が産んだのだとして、子供の認知も拒否したのだった。実際明子の素行はかなり悪く、何人もの男と関係があった。百万円の手切れ金を手に、明子はカナを連れて東京に出てきた。夜の仕事や売春まがいの仕事をしながら、男をとっかえひっかえして生きて来た。父親はもちろん母親からの愛情も不十分に育ったカナだったが、意外にも学校の成績は良く、生活態度も悪くはなかった。しかし高校進学はせずに中学を卒業すると、コンビニやパン屋のバイトなどをしてお金を蓄えだした。早く母とその男たちが住むアパートから出て行くためだった。そのバイトでためたわずかな金も母明子に使われる事もあった。17歳でカナは一人暮らしを始めた。真面目に働くカナに感心したパン屋の店主が、持っていたアパートの1室を敷金なしで貸してくれたのだった。仕事は楽しかった。残ったパンを貰える事もカナには助かった。節約してお金を貯めて、大検を受けて大学に行くのを目標にした。自分は母のようにはなりたくない、そう思っていた。20歳の頃よくパンを買いに来る大学生と付き合うようになった。大学生の諸田真一郎と真剣に付き合って1年が過ぎた頃、カナは真一郎の子供を身ごもった。真一郎は大学4年生で、就職はすでに大手地方銀行に決まっていた。当然真一郎の両親は結婚も産む事も反対した。中絶を迫まられたが、カナはどうしても受け入れられず、未婚のまま産む事を決心した。産まれた女の子に真一郎と自分の名前の一字づつを合わせて『真奈』と名付けた。シングルマザーとなったカナは、自分が受けることのなかった愛情を娘の真奈に注いだ。真奈を保育所に預けてパン屋で働き、休みの日にはずっと真奈と過ごした。虐待なんて全く考えられなかった。保育所の先生方もパン屋の店主夫婦も同じ意見だった。真奈が産まれてから、カナは誰とも付き合うことはなかった。真奈のためだけに働き、時間を費やした。それがほんの3か月程前から、17歳の男子高校生と半同棲の生活になり、今回の事件が起きたのだ。どんなに子供のためと言ってもやっぱり女なんだ、子供が邪魔になって殺したんだとマスコミはこぞって報道したのだった。

稲垣吾郎ドラマ  アザーセンス 霊感心理カウンセラー 六条伍銅③

 久しぶりに沢村から電話があった。年に数回は飲みに行ったり、ゴルフをする仲ではあるが、ここ3か月ほどお互い忙しくて、連絡を取っていなかった。彼は大手弁護士事務所に所属しており、仕事は大手企業の顧問弁護や財産管理などを手掛けることが多いのだが、今回国選弁護人として引き受けた案件で、僕に被告人の心理面について聞きたい事があるようだった。

「久しぶり。達也から仕事で相談って珍しいね」

 僕の言葉に沢村はちょっとため息をついてから、話し始めた。

「ああ。ニュースでも聞いてると思うけど、26歳の女が4歳の娘を殺したって言う事件なんだけど。まあそれだけなら今のご時世珍しくないけど、一緒に住んでたパートナーが17歳の高校生だった、あれなんだよ」

「そうか、確か母親が一人でやったって言う。その母親の心理面のサポートか何か?」

「まあ、それもだけど。彼女が全く弁解も何もせず、自分でやったと、男は関係なく自分がやった、それだけしか言わないんだ。彼女が娘を虐待してた様子は無いんだが・・・、何か引っかかるんだよ。ピンと来ないと言うか・・・」

「男からDVを受けていたとか?」

「今のところそんな事実は確認出来てない」

「ふ~ん」

 僕は沢村の話を聞いて、少し興味がわいた。通常こうした事件の場合、母親がパートナーの男と一緒に子供を虐待したり、母親が男からDVを受けていて、男の支配下にあったりするのだが、沢村の言葉からは明らかな暴力的な要素が感じられなかった。

「まずは、会って話を聞くよ」

「そうしてくれるとありがたいよ。伍銅ちゃん!」

 沢村の上ずった声を聞き電話を切った僕は、その事件のことを検索してみた。

 

 シングルマザーの26歳の女が娘を4階から突き落として殺害。愛人は17歳の男子高校生。二人は半年ほど前から半同棲の状況であった。男子高校生や母親が娘を虐待していた事実は現在掴めていないが、若い男に溺れた母親が、邪魔な娘を発作的に殺害したものと警察は考えている。

 関連記事で、大人になり切れない大人。いつまでも女であろうとする母親。簡単にシングルマザーの道を選び、簡単に育児放棄する。と言った記事が載っていた。

 その日の夜沢村が僕の家を訪ねてきた。

稲垣吾郎ドラマ  アザーセンス 霊感心理カウンセラー 六条伍銅② 

 他の人に見えない「何か」が見える以外に、人の心が読める事に気づいたのは、小学校2年生の頃だった。それまでにも何となく、人の感じている事が分かる感じはあったのだが、自宅で家族と夕食を摂っている時、デザートに出てきたチーズケーキを食べた僕は、「レモンじゃなくって酢を入れたんだ」そう言うと、母が驚いて言った。

「あら、バレちゃった?」

 僕は不思議そうに言った。

「だって、お母さんが『レモン忘れちゃったから酢入れたけど、大丈夫かな』って、言ったから」

「いつ?あら、言ってないわよ。多分」

「さっき、ケーキ出してくれた時だよ」

 僕に言葉にみんな不思議がったが、祖母は小さく頷いた。そして母に向かって祖母が言った。

「由希子さん、目覚めたようですよ。でもまだ能力を使うには早すぎるわね」

 そう、僕は人の心が読めるのだ。ふいに心の声を読める場合もあれば、出来事を映像のように感じる事も出来る。その時の体調や対象者との波長によって変化はあるのだが、能力のコントロールは難しく、子供だった僕が祖母の言う人の『心の箱』を不用意に開けるのは危険だと危惧した祖母により、その能力は一時封印されたのだった。

 その日の夜、祖母は僕を自分の部屋に呼んだ。部屋の中はお香の匂いがした。祖母は古風な面立ちとは違い、意外と洋風かぶれで特に中世のヨーロッパの物がお気に入りだった。祖母の部屋はモダンな洋式の部屋で、バロック調の家具や小物が所狭しと配置されていた。重厚なベロアのカーテンや、猫足のテーブルの上には陶器のティーポット。足が沈み込みそうな絨毯。そんな部屋の片隅に畳三畳ほどの薄い紫色のシルクのカーテンに囲まれた空間があり、その中に僕は入れられた。そこはまるで異空間で、異世界への前室のような印象を僕に与えた。幼い頃からその空間には近寄ってはいけない畏れを感じていた。

「そこにお座りなさい」

 用意されていた座布団の上に僕は座った。無地の濃い紫色の薄っぺらな座布団。贅沢な部屋と相対する座布団は、日本の茶室のような質素さを感じさせた。恐る恐る正座をした僕に祖母は自分の左手を僕の額に当て、その手を滑らせるように目まで下げ僕の目を閉じさせた。

「心の箱を開けるには、鍵が必要です。その鍵は、心の奥底にしまってある。鍵は言葉、その人に心を揺さぶる言葉・・・」

 僕が目を開けたのは祖母の部屋ではなく、自分の部屋であった。どうやら眠ってしまったのだ。いや、眠らされたのかもしれない。それから、僕は人の心の言葉を聞くことはなくなった。祖父の死が近づくまで。

 

 良家の子息・子女が通う桃李学園に幼稚舎から席を置く僕は、受験とは無縁のままエレベーター式に大学まで進学した。エレベーター式と言っても、ある程度のレベルに達していないと大学には進学出来ないし、マナーに厳しい校風であったため、遊びほうけていた訳ではない。大学では心理学を専攻し、卒後はフリーの心理カウンセラーを生業にした。カウンセリングをする時に心の箱を開けるかって?そんな無粋な事はしませんよ。人の心は、そんなに簡単に覗くものではないからだ。その僕が、ある事件に関わった時、心の箱の扉を開ける事になった。あれは今から5年前、僕が36歳の時だった。小学校からの友人で弁護士の沢村達也から、彼の案件の相談を受けのが始まりだった。