ゴロチマニア 

日比日向多が勝手に稲垣吾郎さんを語ってます

稲垣吾郎ドラマ 六条伍銅シリーズ 王子様な生活④

         三崎れいの場合

 8年前、ドラマの共演でれいと知り合った。僕が34歳でれいが26歳だった。れいは、それまで恋愛ドラマのヒロイン役が多く、年齢的に役の幅を広げたい時期に差し掛かっていた。僕もちょっと今までとは違うコミカルな役に挑戦しようとしていた時で、ドジな探偵とバイオレンスな美女の依頼者という役どころで二人の意外性と、ロマンスの無いストーリーが好評だった。れいは165㎝のスタイルの良い美人で、デビュー当時から年齢より大人の雰囲気を感じさせた。ナチュラル美人と言うよりは、きっちりとメイクをしたスキのない都会的な感じで、派手系ではあるが凛とした美しさを持っていた。ドラマの収録を終える頃には、二人の関係は恋人同士になっていた。デートはおしゃれなイタリアンやフレンチ。僕の趣味に合わせてれいもゴルフを始めた。レストランの食事にはコンサバティブな装いで、ゴルフの時は崩しすぎないスポーティーなウェアーで、ドライブの時は、ジーンズにリネンのシンプルなシャツを合わせてくる、れいのセンスの良さも好きだった。付き合って2年経つ頃、れいは僕のマンションの近くに引っ越してきた。れいはそれまで大学生の妹と住んでいたのだが、妹が就職して名古屋に行くことのなったのが切っ掛けだった。それまで時々れいは僕のマンションに来る事があった。時間がある時はれいが料理を作ってくれた。ビーフストロガノフやアクアパッツァを材料にこだわって作っていた。味は三ッ星とはいかないが、普通においしくいただけるものだった。

「伍銅さんに料理を出すって緊張するの。いつも美味しいもの食べてるでしょう」

「れいの料理もおいしいよ」

「・・・、今度私の家に来て」

「君の家?」

「ええ、ほら近くにお部屋借りたでしょ。ここみたいに豪華なマンションじゃないけど、本当の私を知って欲しいの」

 

 れいに言われて、僕が初めてれいのマンションに行った日。白と黄色のカラーの花で作った花束を持って訪ねた。出て来たれいは、白地に紺のボーダー柄の上下の部屋着を着ていた。生地はパイルでモコモコ感がある物だ。顔はすっぴんで眼鏡を掛けていた。花束を渡すのも忘れている僕にれいが申し訳なさそうに言った。

「ごめんなさい、驚いた?まずは、あがって」

「ああ、今日はお招きありがとう。これ・・・」

 僕は花束を手渡した。

 部屋に入ると8畳ほどのリビングに3畳のキッチンがついていた。リビングの中央にはコタツがあり、座椅子が二つ置いてあった。近くにカウチソファに座布団が3枚置かれていて、テレビとパソコンデスクがあった。

「適当に座って。今料理を盛り付けるから」

「ありがとう。何か手伝おうか?」

 キッチンに向かって言った。れいは食器棚から器を選んでいる。

「ああ、じゃあ冷蔵庫から飲み物を出して。ビールか缶チューハイなんだけど・・」

 冷蔵庫を開けると、6缶のビールと色んな種類の缶チューハイが入っていた。

「れいは何を飲むの?」

「ああ、私はチューハイ。レモンので。伍銅さんは好きなの出して。ワインとかなくってごめんね」

「いいよ、大丈夫。僕はビールで」

 コタツにビールとチューハイの缶を置いた。僕の部屋で二人で飲む時は、ワインをデキャンタに入れて飲んでいたが、どうやら今日はグラスもないようだ。

 れいが自分で作った手料理を次々に運んできた。

「おいしそうだね」

「本当?うれしい」

 素顔のれいは普段より幼い顔をしている。都会的な感じではなく、素朴でカントリーな感じだ。

「あのね、今日は普段の私を知って欲しかったの。私は田舎の子で、料理はこういうのが得意なの」

 そう話すれいは話し方も子供ぽかった。

「んと、肉じゃがと春菊の胡麻和え、わかめときゅうりの酢の物にきんぴらごぼう。お味噌汁はお豆腐です。高校生の頃から作ってたの。どうかな、食べてみて。あっ、その前に乾杯」

 れいはチューハイの缶のリングプルを開けた。僕もビールのリングプルを開け乾杯した。

「れいの素顔に乾杯」

 ビールを缶で飲むのはいつ振りだろう。そんな事を考えながら、れいの料理を口にした。優しい味のする料理だった。都会とは対極的にある味。研ぎ澄まされていない、角の立たないそんな味がした。

「おいしいよ。味が優しい」

「マジで?やった~。ドキドキものだったの。ねえ、本当の事言うと、私今まで結構背伸びしてたの。伍銅さんに似合う大人の女を意識して。でも、そんなの長続きしないって思って、思い切って素の自分を出してみたの。だから伍銅さんも本当の自分を出して欲しいの。ずっと六条伍銅の着ぐるみ着てるけど、脱いじゃって!」

 脱いじゃってって!う~ん、僕の場合、そういうのは、むしろもう一つ着ぐるみを被る感じなんだけど・・・・。

稲垣吾郎ドラマ 六条伍銅シリーズ 王子様な生活③

 僕は六条伍銅という着ぐるみを被っている。演技をしている時は別だが、移動の時も楽屋に居る時もバラエティーでもインタビューでも、常に六条伍銅だ。エレガンスでノーブルでスマート。ある雑誌の取材で、インタビュアーの人にこう聞かれた。

「六条伍銅でいるのって、疲れませんか?」

 僕はこう答えた。

「ファンタジーですから」

 

 この着ぐるみをいつ脱ぐかって?まあまあ、そこはちょっとしたからくりがあって・・・。

 

 移動の車の中で吉川マネージャーとこれからの予定を確認する。

「今日のこの後のスケジュールは?」

「これから雑誌のインタビューです。舞台の宣伝入れてください。来週から舞台稽古入るんで、夜はラジオ2週間分録ります」

「2週間分?話す事あるかな~」

 ラジオは15年やっている。10分の帯番組なので通常は1週間分録るのだが、スケジュールの都合でたまに2週間分になることがある。ちょっとネタに困る時は、趣味の陶芸やゴルフの話をする。たまにはデートプランや、好みの女性の話なんかもする。結構リスナーからは、女性があこがれるような僕のデートプランは、ドラマのようだと評判が良い。

 

 雑誌のインタビューは1時間程度で終わった。終わり際にインタビュアーの人が言った。

「今日はありがとうございました。そう言えば、先月三崎さんのインタビューをしたのですが、まだ六条さんに思いがあるような事おっしゃってたので、今日の結婚報道にびっくりしちゃいました。もちろんオフレコで」

「あはは、とんだマリオネットだ。さすが女優だ」

「マジっぽい感じでしたよ。ただ、『私じゃあ務まらないわ』とおっしゃって笑ってました。それじゃあ、失礼します」

 僕たちのやり取りを聞いていた吉川さんが小声で聞いてきた。

「一体、どんな付き合い方してたんですか?」

「う~ん・・・」

「ああって~、はぐらかす。伍銅さん、私40歳の独身女性です。子供一人いますけど・・。でも、年的に私と付き合っても良いんですよ。まあ、無理でしょうけど」

「そんなことないよ。女性はみんな魅力的ですから」

「どこまで本気か分からないです。そこが六条伍銅か。マネージャーの私にも伍銅さんの素の部分、見せてくれないんですね!って、それが素だったりして」

 吉川さんが少しすねたように言った。

 そう、それが素なんだ。僕はれいとの恋愛期間の事を思い出していた。

稲垣吾郎ドラマ 六条伍銅シリーズ 王子様な生活②

 女優 三崎れい(34歳)が結婚。お相手は40歳のイケメン医師。そんな報道がワイドショーを賑わせた。マネージャーの吉川さんから連絡が入った。

「伍銅さん、多分今日の舞台制作発表会の時、三崎さんの事でコメントを求められると思うわ」

「う~ん、分かった。当たり障りのないコメント考えておく」

「12時に迎えに行くわ」

 僕は電話を切って、目を覚ますためにお風呂に入った。朝だからジャスミンの香りのバスソルトを入れた。音楽はゆったりブラームスで。ラインが入ったので開けてみる。三崎れいからだ。

『伍銅ちゃん、ご迷惑かけるかも  よろしくね』

 れいらしいと思う。

『大丈夫だよ。おめでとう  心から幸せを願うよ』

 れいとは8年程前から付き合い始めた。マスコミに気づかれて、何度か結婚間近の報道がされたが、付き合って6年で別れた。今でも連絡は取り合っている。いい友人の一人だ。れいの前にはモデルの万葉やアイドルの吉川淳奈、女優の本宮春香とも付き合った。れいが一番長かったが、れいの後に付き合ったエッセイストの朝日サキとも友人関係は続いている。どの女性も素晴らしい人たちだったが、みんな僕の素の部分を知ると、同じ言葉を口にした。

『あなたは素敵な人。でも私には無理』

 結婚したい。なのに相手がいないのだ。バスタブにつかりながら、これまでの女性たちとの思い出に浸った。

 そろそろ、あがるか。バスローブに身を包み髪の毛を乾かす。8割程度乾いたら、勢いよく水道の蛇口から出した水をポットに入れお湯を沸かした。紅茶を入れるためだ。紅茶は意外と汲みたての水道水が向いている。リビングの花が少ししおれているのが気になった。今風の大きくこんもり盛ったアレンジフラワーも好きだが、少ない花材で風流さを表現する生け花も好きだ。お茶を飲んだ後、少しフルーツトマトとチーズをつまんだ。着替えを済ませるとマネージャーが迎えに来てくれた。車に乗り込むと、三崎れいの記事を僕に見せてきた。

「これです。まあ伍銅さんのことは悪く言ってないです。『いい思い出があって、今があるので。私と彼のこれからの幸せを見守って下さい』ですって、大人だね」

 吉川マネージャーが感心したように言った。吉川さんは今年40歳になる女性だ。20代で結婚・出産し、33歳で離婚。シングルマザーとして、たくましく生きている。僕の担当になって5年になる。僕の理解度は80%くらいか。れいと付き合っていた頃も知っている。

れいは素敵な女性だったよ」

 僕は車の窓から流れる外の景色を見ながら言った。

「やっぱり伍銅さん、三崎さんと結婚すれば良かったんじゃないですか?」

「ふふふ・・、僕はそれでも良かったけどね。まあ当人たちしか分からないことってあるからね」

「そうですか・・・」

 

 僕の主演舞台の制作発表会が行われるホテルに到着した。これから1か月ほど稽古に入り、来月から公演される。舞台は年に1回程度行っている。最近は舞台の楽しさに目覚めた部分もある。直接お客様の反応が分かるのが魅力だ。ストイックな練習風景も好きだ。

 一通り制作発表が終わり場を立ち去ろうとすると、芸能リポーターが声をかけてくる。

「六条さん、三崎さんのご結婚についてはご存知でしたか?」

「三崎さんに一言お願いします!」

 予定通りちょっと立ち止まり、笑顔で僕は答えた。

「とてもおめでたい事で、僕もうれしく思ってます。お二人がお幸せになることを願っています」

「伍銅さんの方はいかかですか?」

 きたきた、おなじみの質問。と思いながらもカメラ目線で僕は答えた。

「僕ですか?フリーですよ。僕もいい出会いを待ってます。今日はありがとうございました」

 後はスマートに立ち去る。近づいてきた吉川マネが囁いた。

「カッコいいです」

 だって、僕はいつでも六条伍銅だから。

稲垣吾郎ドラマ 六条伍銅シリーズ 王子様な生活①

 霊感心理カウンセラーの六条伍銅は、事件を一つ解決しました。今回、稲垣吾郎さんのドラマを勝手に書いている私は、同じ六条伍銅シリーズとして、今度は吾郎さんと同じ芸能人の設定でドラマを書きたいと思いました。

 42歳の最後の大物独身俳優と言われている六条伍銅。端正な顔とエレガンスな佇まいで、王子様キャラとして常に芸能界で活躍してきた。数多くの女優や文化人との浮名を流すものの、結婚にまでは至らず、最近ではお姉疑惑が出る始末。周囲では、実際の素の部分は、もっと普通のおじさんなのにそこを出すことが出来ないのでは?と思っており、安心して素を出せる人と巡り合ったら結婚もあるのではと、芸能リポーターたちも思っていた。ところが実際は・・・、普通のおじさんどころか、TVで見るパブリックイメージを超える、王子様キャラが素だった!という設定のお話です。

 

 六条伍銅、42歳、独身。職業俳優。それが僕だ。20代から30代前半までは恋愛やアクション物を多く演じてきたが、30代後半からは少し仕事をセーブして、趣味のゴルフや陶芸などの時間を多く持ち、スローフードにも興味を持つ反面、しゃれたフレンチやイタリアンに足を運ぶ。洋服はシンプルな感じが好みで、どちらかと言えば素材にこだわるタイプだ。肌触りの良さや着心地感を大切にしている。日本人なので和服も着る。数年前からたしなみとして茶道を始めた。もともと陶芸の趣味もあるので、抹茶椀を作る楽しみにも丁度よかった。世間一般の僕のイメージは、セレブな王子様キャラだ。女性も常に美意識を高めている人じゃないと合わない感じだ。常に赤いバラをプレゼントする、バスタブには花びらが浮かんでおり、入浴後はバスローブ。朝食はクラシック音楽を聴きながら色鮮やかなフルーツに野菜と、少しの肉を食べる。コーヒーよりも紅茶が好きで、器にこだわる。そんなイメージの僕だが、男の厄年も終えそろそろ本当に結婚して落ち着けと周囲から言われるが、僕だって結婚したい!本当の僕を理解し、受け止めることの出来る女性が現れたら!だけど、本当の僕は、もっともっと王子様な生活なんだ!

 

 

稲垣吾郎ドラマ アザーセンス 霊感心理カウンセラー 六条伍銅⑪

 あの日・・、事件の日の事をカナは思い出していた。真奈の手を握り外階段を昇った。この場所から二人でやり直したいとカナは思っていた。真奈がカナに言った。

「ママ、ここは?」

「う~ん、もしかしたらね、ここにお引越しするかもしれないの」

「お引越し?真奈とママと、お兄ちゃんも?」

 真奈の言葉にカナはドキッとした。お兄ちゃんとは吉井貫の事だ。

「ううん、真奈とママだけ。お兄ちゃんは来ないの。ねえ真奈、この話はお兄ちゃんには絶対言っちゃダメだからね」

「そうなの・・。ママはお兄ちゃんと一緒が良いでしょ?」

「ううん、ママは真奈が居ればいいの」

「あのね、ママ。真奈は大丈夫だよ」

 真奈はそう言うとカナの手を強く握った。その小さな手をカナは愛おしく思った。4歳の子供が、全く駄目な母親である自分を気遣ってくれていることが、苦しいほど分かった。4階の踊り場に三輪車が置いてあった。カナはこれからの事をぼんやりと考えていると、その間に真奈は三輪車を足台にして、手すりによじ登っていた。カナが気づいた時、真奈は手すりにまたがっていた。危ないと思った瞬間真奈が言った。

「ママ、見て。お空を飛べるよ」

 真奈をつかもうと手を伸ばしたが一瞬遅く真奈が落ちて行った。後何センチだろうか、ほんの一瞬の出来事だった。スローモーションのように転落していく真奈。

 

 カナは法廷で号泣した。声を出して泣いた。氾濫した川の様に涙があふれ出て、留まるところを知らぬように泣き続けた。しばらく誰もカナに声をかけることが出来なかった。

 どのくらいの時間が経ったろうか、カナがひとしきり泣いた後、伍銅が話し始めた。

「カナさん、今思い出す真奈さんはどんな顔をしていますか?」

 伍銅の質問にカナはかすれた声で答えた。

「思い出せないんです。ぼんやりしていて、真奈が死んでから真奈の顔がはっきりと思い出せないんです。泣いているのかもしれません。落ちて行く真奈のシルエットははっきり覚えているのに、顔だけが不思議と思い出せないんです」

「カナさん、辛いでしょうね。でもあなたはある意味被害者でした。聡明なあなたが、もし一般的な家庭に産まれ育ったなら、今とは全く違う人生だったでしょう。しかし子供は親を選べない。あなたは自分の運命を呪いながらも真奈さんを産んだ。自分と同じ思いをさせないようにと、必死に愛情を注いだ。あなたは愛情に枯渇していた。だから真奈さんに愛情を注ぐことで、自分の枯渇している心を満たしていたんです。でもそんな大切な娘に結果辛い思いをさせてしまった。自分はあの母親と同じなのだと思った時、あなたの体は絶望感に襲われたでしょう。負の連鎖から抜け出せないんだと。自分の様な人間は、母親になる資格は無いのだと。でもね、カナさん。真奈さんはあなたの娘に産まれた事、あなたからあふれんばかりの愛情を注がれたこと、十分に分かってますよ。あなたは全てを封印して刑に服しようとしているようですが、それではあなたと真奈さんが産まれて来た意味が失われてしまう。もっと自分を大事にして下さい。真奈さんを心の限り愛したことに自信を持って下さい。子供は親を選べないと言いましたが、もしもう一度この世に産まれ落ちる事が出来るなら、真奈さんはきっとまたカナさんを母親に選ぶと思いますよ」

「真奈に会いたい・・・」

 カナは絞り出すように言うと再び泣き出した。しかし今度の涙は静かに降る雨の様に染み渡るような涙だった。

「裁判長、今回の事故に殺意はなかったと僕は思います。その事が証明できるかどうかは別ですが、カナさん自身は刑が軽くなることを望んではいないでしょう。ですが、不幸で劣悪な環境に産まれ育ったカナさんに、どれ程の生きていく選択肢があったでしょうか。それでも懸命に娘を愛し育て、そして傷つけた。これほど悲しい女性がいるでしょうか?世間が作り上げた、若い男に夢中になって、4歳の我が子を転落させて殺害した女では無い事をどうぞ分かって下さい」

 しばらくカナの押し殺したような泣き声が法廷内に響いていた。時を見計らったように裁判長が口を開いた。

「殺意の有無、吉井氏によって撮影されたとする被害者の画像の信憑性など、再度証明・審理する必要があります。今日はこれで終了とします。最後に、被告人へ一言添えたいと思います。あなたには黙秘権があります。自分に不利になる証言はしなくても良い権利です。ですが、やはり正直にすべてを話されたほうが良いかと思います」

「はい」

 裁判長の言葉にカナは素直に返事をした。

 

 後日、カナは業務上過失致死罪で5年が求刑された。達也がその事を伝えに僕の所にやってきた。

「伍銅ちゃん、ありがとう。やっぱお前に頼んで良かったよ」

 達也が僕の事をちゃん付けで呼ぶ時は、何か企んでいるか照れている時だが・・・、僕は達也の顔を見て、ははあん、照れてるのか・・。と気づいた。

「今日は俺の礼とは別に、中野カナの言葉を伝えに来たんだ」

「そうなんだ・・、で?どんな言葉かな?」

「出来る限り正確に伝えるよと言っても難しいから、預かった手紙を渡すよ、読んでみて」

 達也は白い封筒を僕に手渡した。

 六条 伍銅様

 まずは、今回は本当にありがとうございました。自分の存在、真奈を自分の子供として産んでしまったこと、全てを否定し恨み、苦しみ、もがいていました。いえ、もうもがくことさえ諦めていたのかもしれません。ただ、ひっそりいなくなってしまいたい、消えてしまいたいと思ってました。それが、先日六条さんに、真奈は又産まれるなら、私を母親に選ぶと言われて、心から真奈に申し訳ない気持ちと、でもそれ以上に愛おしさと喜びでいっぱいになりました。不思議なんですが、今は真奈の顔を思い出せるんです。その顔が笑ってるんです。私もう一度大学受験を目指してみようと思います。そして、いつか劣悪な環境に置かれている子供や母親のために、何か出来ないかと考えてます。私のような、真奈のような子供を救いたいです。それが出来たなら、私と真奈がこの世に産まれた意義があると信じています。

 六条先生、どうぞお元気で。

                          中野 カナ

 

 手紙を読み終えた僕を達也は満足そうに見つめた。この先、中野カナが立ち直ってくれることを僕は祈った。これが僕の初めての事件だった。

      

 

 

稲垣吾郎ドラマ アザーセンス 霊感心理カウンセラー 六条伍銅⑩

「お名前を」

 達也が僕に言った。

「六条伍銅です」

「お仕事は?」

「心理カウンセラーです。大学の非常勤講師も務めています」

「裁判長、今回心理カウンセラーである六条氏が、事件の裏に潜む被告人の心理面を分析してくれます。後は、宜しくお願いします」

 達也はそう言うと、僕に軽い目配せをした。久しく感じる事がなかった緊張感が僕を包んだ。僕は中野カナを見て話し始めた。

「中野さん、あなたは自分のせいで真奈さんが死んだ、だから殺意があろうがなかろうが関係ないと思っていますね。ただ、真奈さんのために罪を償うだけだと」

 カナは一瞬僕の方を見たが、すぐにうつむいてしまった。僕は話を続けた。

「これから僕が話す事は、カナさんにとって苦しいものになるかもしれません。ですが、あなたと真奈さんの魂を救うためには、必要であることをご理解下さい。あなたは母明子さんが高校3年生の時長女として産まれた。父親は明子さんと同級生でしたが、結婚はせず認知もされなかった。明子さんはあなたを女手一つで育てたんですが、あなたと違い明子さんは母性に欠けている女性でした。明子さんは多数の男性と交際・同棲し、あなたはその都度辛い思いをしてきました。あなたが小学4年生の時、明子さんと当時同棲していた男性にレイプされました。そのことを知った明子さんは、母として娘であるあなたを守るどころか、あなたに嫉妬して罵った。あなたは激しい絶望と憎悪を抱いた。自分にとって父親のような年齢の男性に対する不信感と、母親に対する拒否感から、絶対に自分は母と同じにはならないと誓った。そうですね?」

「だから何なんですか?私の生い立ちを今更説明して・・・。思い出したくもない事です」

 カナは少し苛立ったように答えた。

「あなたには目標があった。あなたは学校の成績が良かったが、劣悪な環境のため高校には進学せずすぐに家を飛び出し、中学生の時からバイトしていた現在のパン屋で働いて自活した。お金を貯めて、大検を受けて大学進学することを考えていた。あなたは大学進学し生計の立てられる職に就き、できれば普通の結婚をし、平凡な幸せを手に入れたかった。そんな折、あなたが20歳の時知り合った当時大学生と恋に落ち、真奈さんを身ごもった。相手の男性の両親は結婚に反対し中絶を迫った。悩んだ末、あなたはシングルマザーとして生きる道を選んだ。自分が拒否する母と同じ道、でも自分は決して母のようにはならない、娘を傷つけたりしない、そう固く心に誓った。大学進学よりも娘を育てる事、真奈さんのためだけに生きる事をあなたは選んだ。そしてその通りにあなたはしていた。それは周囲の方々も証言してくれるでしょう。ただ、あなたは吉井貫と出会ってしまった。9歳も年下の高校生とふとした切っ掛けで接点を持ち、彼に母性と恋心を同時に持ってしまった。過去の経緯からあなたは、父親のような年齢の男性に嫌悪感を抱いています。その点吉井さんは自分よりずっと年下で、不思議と安心できた。真奈さんのためだけに生きようと決心していたのに、吉井さんに心を奪われていく事にあなたは酷く葛藤したことでしょう」

「やめて、関係ないわ。彼の事は関係ない!」

 カナは立ち上がって、しかし顔はうつむいたまま強い口調で言った。

参考人、今の話の真意は何ですか?」

 裁判長が伍銅に尋ねた。

「ここはもう少しご辛抱して聞いて下さい。なぜこんな事件が起こってしまったか、彼女の深層心理を理解することが、事件の真相に繋がります」

 僕は、真っすぐに裁判長を見据えて言った。

「分かりました。どうぞ続けて下さい」

「ありがとう存じます」

 僕は再びカナに向かって話し始めた。

「あなたは、自分でも分かっていた。この恋愛が続かないことを。だから市営住宅に入居希望を出した。吉井さんと別れて真奈さんと二人で暮らそうと。あけぼの市営住宅は、片親世帯優先住宅ですからね。入居が決まれば吉井さんに行き先を教えずに別れるつもりだったのでしょう。そんな時、偶然あなたは大変な物を見てしまった。吉井さんのスマホに・・」

「やめて!やめてって言ってるでしょう!」

 僕の言葉をかき消すようにカナが叫んだ。周囲は騒然とした。

「被告人は冷静に」

 興奮してカナは裁判長に詰め寄って言った。

「この人は、関係ない事を言ってるんです。私は罪を認めてるんですよ!これ以上裁判なんて、する必要ない!早く私を死刑にして下さい」

 達也がカナを鎮めるように元の席に誘導するが、カナは興奮して動こうとしなかった。これまで自分の感情を抑えていたカナの高揚振りに、場内がざわついていた。係員が2名カナの両腕をつかみ静かに席に戻した。

 2~3分経過しただろうか。裁判長が僕に尋ねた。

「続けますか?」

 カナは席に座って首を横に振っている。

「はい。カナさん、辛い事ですが逃げないで下さい」

 僕はカナに向かって言った。

「吉井さんのスマホに真奈さんのわいせつな画像が撮られているのを見つけてしまった。彼は真奈さんのわいせつ画像を児童ポルノサイトなどで売って、小銭を稼いでいた。それを知ったあなたは・・」

「やめてって言ってるのに・・・」

 座ったままカナは震える声で僕に訴えた。僕の目に映ったカナは、怯えと憎しみの入り混じった表情であったが、どこかすでに諦めている様に見えた。

「裁判長、そんな事実は確認しておりません。吉井貫氏のスマホは紛失したままで、見つかってはいませんでしたが・・・」

 須田検事が声を上げた。それに対して、達也が答えた。

「この件に関しましては、吉井氏がサイトに投稿した画像、また購入者から画像提供があり、弁護側は発信元が吉井氏のスマホのアカウントと一致している事は確認できています。この後、証拠として書面で提出する予定です」

 達也のフォローの後、僕は話を続けた。

「カナさん、あなたはその事を知り、愕然とした。結局、自分も母と同じく自分が関係を持った男に娘を傷つけられてしまった。いや、傷つけたのは自分自身だと。自分の娘に産まれなければ、こんな思いをさせずに済んだのに・・・。かつて母明子さんの子として産まれた事を呪ったあなたは、全く明子さんと同じ種類の人間だと悟った。自分が母親になる資格が無い人間だと、そう思った。あの事件の起きた日、あなたは仕事が休みだった事もあり、真奈さんと二人で出かけた。朝方、吉井さんのスマホをデータ修復が出来ないように叩き割って川に捨てた。それは真奈さんの秘密を守るためですね」

 カナは黙って聞いている。

「吉井さんが高校へ行った後、あなたと真奈さんは家を出た。公園で真奈さんと一緒に遊んだ後、あけぼの市営住宅に向かった。この時は真奈さんと二人でやり直す気持ちだったはずです。真奈さんと4階まで外階段を昇った。その踊り場には住人の三輪車が置いてあった。真奈さんに三輪車を与えてあげられていない自分にあなたは腹が立った。あなたはこの先が急に不安になった。今のままで真奈さんをきちんと育てていけるのか?真奈さんはまだ4歳です。自分が吉井さんにされた行為がどの程度理解できているか分からないが、物凄く心に深い傷跡を残してしまったのでは?自分が吉井貫とさえ付き合わなければ、こんな事にならなかったのに、とぼんやり遠くを眺めながらあなたが考えていると、その間に真奈さんは三輪車を台替わりにして、手すりによじ登っていた。気づいたあなたは、危ないと思い手を伸ばした時、真奈さんは誤って転落してしまった」

「わー!真奈、ごめんね、ごめんね」

 カナが泣き叫んだ。

「その時、真奈さんはあなたに何か言ったはずですが?」

「真奈は私に・・・、『ママ、真奈は大丈夫だよ。見て、お空が飛べるよ』って・・」

 カナは泣きじゃくっている。まだ4歳の子供が、でも子供なりに母親を慮って言ったのだ。

稲垣吾郎ドラマ アザーセンス 霊感心理カウンセラー 六条伍銅⑨

          初公判

(*実際の裁判状況とは異なります)

 初公判の日を迎えた。事件は世間の注目を浴びて居る事もあり、マスコミも多く傍聴席にいた。検察側が淡々と事件のあらましを説明した。検察官は40代前半の女性だった。

「被告人中野カナは、2012年10月17日水曜日午前10時25分頃、東京都S市あけぼの市営住宅の4階、外階段の踊り場から長女中野真奈を転落させ殺害した。この日は被告人の仕事が休みであり、長女も保育所を熱があると言って休ませ、二人であけぼの市営住宅へ行った。この市営住宅は、2か月前に被告人が入居希望を出しております。市営住宅は4階建てであり、外階段を使って二人は4階まで上がった。4階の踊り場で、階段の手すりに長女を座らせ背中を押して転落させた。長女は即死状態で、救急車で救急搬送された先の病院で死亡が確認された。殺害の動機は、被告人には訳半年ほど前から17歳の高校生男子生徒と交際しており、半同棲状態であった。その男子生徒との交際に、長女が邪魔になり殺害した」

この日、グレーのスウェット上下を着たカナはうつむいて静かに話を聞いている。

「あなたが娘の真奈さんを突き落として殺したのですね?」

 カナははっきりとした声で答えた。

「はい。」

「あなたが真奈さんを手すりに座らせたんですか?」

「・・はい、そうだと思います。」

「自分で抱きかかて、転落させる目的で座らせたんですか?」

「いえ、真奈が空を飛んでるみたいだねって、言って。そばにあった三輪車のサドルに立ち上がって、手すりを鉄棒の様によじ登るようにしながら、私に手伝って欲しいと言ったので、座らせました」

「最初から殺すつもりで?」

「いいえ。でももう死んでしまったので」

 カナは涙も見せず、空虚に言葉を発していた。

「あの日、なぜあの場所に行ったのですか?」

「仕事が休みだったので、もしかしたら住めるようになるかもしれない団地を見に行こうと、真奈に言って出かけました」

保育所には熱が出たと言ったそうですね?」

 検事の須田は淡々と質問をしていた。

「そのほうが休みやすいと思ったので、深い意味はないです」

「いつ殺そうと思ったのですか?」

「殺そうと思ったかどうかは、正直分からないです。ただ・・・、真奈が手すりに座りたいと言うので、危ないと思いましたが、せがまれた通りに座らせました。その背中がふと動いたように思ったので捕まえようと手を伸ばした時、真奈が落ちてしまって、現実なのか分からなくなってしまって、その場に座り込んでしまいました」

「では、不慮の事故だということですか?あなたは調書では、邪魔になった娘を転落させて殺害したと供述していますが」

 検事は語尾に少し強さを秘めた声で聞いた。裁判当日に自供を翻す被告人はよく居るので、さほど驚きはしなかった。しかし、その質問に対するカナの答えは意外なものだった。

「事故か殺人か、私にはどっちでも、どうでも良いんです。真奈が死んだ原因は私にあるという事です。ですから、殺したのか?と聞かれれば、はいと答えます。背中を押したのかどうか、もしかしたら押したのかもしれません。私は、真奈の死に責任があり、その責任を負うつもりです。どんな罪でも構いません。いっそ死刑にしてくれて構いません。ですから、一日も早く結審して、終わることを望みます」

 傍聴席がざわついた。カナは表情を変えない。

「ではなぜ責任があるのでしょう?若い男との生活に、娘が邪魔になった?」

「・・・・いえ、はい」

 少しカナが躊躇した。カナに須田が再度確認した。

「違うんですか?」

「そうです」

 伍銅は、この時カナの動揺を感じ取った。

「それでは、あなたは心のどこかで、長女の事を邪魔に感じていた。二人であけぼの団地を見に行った時、若い男と二人の生活を思い描いたのではありませんか?その時、真奈さんが手すりによじ登っているのを見て、うまく誘導し手すりに座らせ発作的に背中を押して転落させたのではないですか?」

 須田の言葉に達也が手を挙げた。

「裁判長。憶測の意見にすぎません」

「どうですか?原告代理人」

 須田はゆっくりと裁判長を向いて答えた。

「殺意があったかは重要な事柄です。我々原告側は、被告人には殺意があったと認識しています。被告人はこれまでシングルマザーとして長女を育ててきました。長女を出産後、男性との交際はなく、つつましくも懸命な子育てをしていたと周囲の評判でした。その被告人が9歳も年下の高校生と恋に落ちた。無防備な恋は被告人から母の部分を失わせ、女の部分を表面化させてしまった。まだ自分は若い、やり直せる、そうした思いが徐々に長女を邪魔な存在にしてしまった。これまで被告人親子に陰ひなたで支えてくれていたパン屋の店主夫妻が、高校生との交際を危惧して被告人に注意したようですが、全く聞く耳を持たない状況だったと答えています。被告人は自分と高校生との交際を周囲に反対されていると思い、そのことが更に恋心を可燃させた。長女さえいなければ、その思いが今回、現場となった市営住宅の4階の踊り場で転落させる機会が訪れた。そこで発作的に殺意を持って転落させたと考えます」

 須田検事は、話し終えると自席に戻った。わずかな沈黙の後、裁判官が言った。

「弁護人からは何かありますか?」

「はい。質問をいくつか」

 達也は立ち上がるとカナに近寄り話し始めた。

「あなたが真奈さんを殺したんですね?」

「はい」

「あなたが、真奈さんの背中をその手で押して、4階から突き落として殺したんですね?地面に叩きつけられると骨折や、内臓破裂、頭が割れることもある。それを覚悟であなたが真奈さんを突き落としたんですね?」

 強い口調で話す達也の前でこの日初めてカナが涙を見せた。両手で持っていたハンカチを握り締め、肩を震わせてこらえるように涙をこぼした。達也はわざと転落時の説明を一般的な言い回しで話したのだ。少しの沈黙の後、カナは答えた。

「はい。私が殺しました」

 その言葉は、カナの決心を感じさせた。そして傍聴席がざわつき、記者達はペンを走らせた。

 達也は軽く首を横に数回振り言った。

「裁判長、ここで参考人の出廷を願います」

 そうして僕は、弁護側の参考人として出廷した。裁判で一体僕に何が出来るのか?僕にとっても挑戦だった。大袈裟なようだが、六条家の次期家督者の意義を問われるようなものだ。