ゴロチマニア 

日比日向多が勝手に稲垣吾郎さんを語ってます

稲垣吾郎ドラマ 六条伍銅シリーズ 王子様な生活⑨

 大人の男女だから、改めて付き合うなんてことを確認することなく、何となく恋の駆け引きを楽しむように、時間が合えば1時間や2時間、バーやクラブで飲むことが多くなっていった。週刊誌にも取り上げられたが、二人の雰囲気がどこか浮世離れしており、周囲はフェイクだと思っていたようだ。何度目かのデートでドライブで少し遠出をした。サキの運転だった。サキは白いミニクーパーで現れた。小さな車に二人で乗り込む。

「いろいろ乗ったけど、今はこれ。見た目は小さいけど馬力がある」

「なるほど、君みたいだ」

 サングラスのサキはチラッと僕のほうを見た。

「ねえ、伍銅ちゃんも同じ庶民の出でしょう?そりゃあ、芸能界でそこそこ成功して高級志向な感じになるのも分かるし、あなたのイメージにも合ってるけど、でもやっぱり昔の様に息抜きしたくならないの?」

「そんなに変かな?僕はこれで息抜きできてるけど。不思議と君の言う高級志向?世間が言う浮世離れな貴公子的振る舞いが、実に性に合ってるんだ」

「マジっすか!」

「はい。マジ」

「やっぱそうなのか~。あたしとは対極に居る人なんだ」

「対極か。サキは一体どんな感じなんだ?都会感を演じてる庶民?」

「庶民って言うか、まっ、ヤンキーだよね」

 心なしか車のスピードが上がった。

「ヤンキーがふとしたきっかけで世間に知られて、勝手なイメージがついて、でも食べてくために必要だから必死にそのイメージを演じてる」

 車はどんどん加速する。

「ちょっとサキ、スピード」

「ああ、ごめん。昔の血が騒いで。六条伍銅を事故に巻き込んだら叱られちゃう」

 サキは、アクセルから足を緩めた。

「そりゃあ、見た目は装ってるかも知れないけど、サキの表現力やワードのチョイスは物凄くセンスが良いと思ってるよ」

「照れる~。あたしも努力してんのよ。今の流行を調べて、最近の傾向や世代ごとの好みや流行ってる物や言葉を丸暗記して、おしゃれな言葉を頭に詰め込んでさ。こう言われたら、こう返すってシミュレーションしてる。これ、企業秘密だからね」

 ちょっと意外な面だった。元ヤンなのは、感じていた。そんな彼女がそこまでの努力をして、現在の女性があこがれるエッセイストの地位を守っている。その姿勢にある意味惚れ直した。これまでの女性たちとは全く違った。

「凄いよ、偉い。ますます好きになった」

 僕は素直に感想を述べた。サキの頬がちょっと赤くなったように思った。

「だから、そういう言葉ってマジ照れる。なのにあっさり言う。伍銅ちゃん、手強いな~もう」

 この時、僕はサキならお互い良い距離で長く付き合えると、この時は思った。

稲垣吾郎ドラマ 六条伍銅シリーズ 王子様な生活⑧

 2週間後、サキから今度は自分の行きつけの店に招待された。ごくごく普通の蕎麦屋だった。庶民の店という感じで、高級感もおしゃれ感もない、一般的な蕎麦屋に案内された。

「ここよ」

 サキは先に暖簾をくぐった。

「こんばんは」

 サキを見ると店のカウンターで新聞を読みながら煙草をふかしていた店主が、くわえ煙草で右手を挙げた。

「おう、みず。男か?」

 店主は、ちらっと僕のほうを見た。僕は軽く会釈をした。

「ったっく。言ってあったでしょう。奥借りるね」

 そう言うとサキはお構いなしに店の奥座敷へ進んだ。僕はサキの後を追った。店にはカウンターに2名の常連らしい客がいた。

「ごめんね~。ここのマスター昔のダチで。こんなお店なかなか行かないでしょう?こういう場所が私のホームなんだよね」

 奥の6畳ほどの個室に二人で入った。

「ここは蕎麦屋さん?」

「そう。まあ、でも居酒屋ね。日本酒はそれなりに揃ってるわ。お料理は、適当にって頼んである。本当に普通の味。良い意味で」

 こういうのも悪くないと思い、僕は酒の品書きを見た。日本酒はそんなに詳しくはない。だが品書きの日本酒も全く一般的な物だった。

「じゃあ、久保田の千寿で」

「了解。熊田!久保田の千寿と私いつもの」

 サキは声をあげた。

「さっき、お店のご主人が『みず』って、言ってたけど?」

「ああ、本名は瑞枝。佐野瑞枝。さえない名前でしょう。あなたは?」

「僕は、変な名前だけど本名なんだ」

「え~、そうなんだ。ねえ、六条伍銅って、実家は確か普通のサラリーマンで、社宅で生活してたって聞いたけど本当?」

「ああ、その通りだよ。団地みたいな社宅だった。父は機械メーカーの技術職だったからね」

 サキは、ちょっと目を見開いて聞いてきた。

「じゃあ、いつからそんな高級志向の貴族みたいな生活してんの?」

「いつから?う~ん、多分芸能界に入って、それなりに名前が売れて、20代中頃かな。なぜ?」

「お待ち。豚の角煮と刺身三種盛り。あと千寿と蕎麦焼酎

 マスターが料理と酒を持ってきた。

「ありがとう。最近景気はどう?」

 料理を受け取りながらサキが聞いた。

「まあ、ぼちぼちだな。こちらは六条伍銅さん?」

「ええ、今日はお世話になります」

「みずの男になるなら、覚悟が必要だよ」

 マスターの言葉にサキは左手を左右に振って言った。

「いい、いい。もうそっち行って」

 マスターはおどけたように首をすくめて去って行った。

「さあ、飲みましょう。あれ、何の話だっけ?」

「いつからこんな生活かって」

「そうそう、結局六条伍銅は、生まれながらの華族の出とか新興成金の息子ではなく、私たちと同じ庶民の出なんでしょ。じゃあ、カッコつけないで庶民らしく行こうよ。ねっ」

 しょっぱなから、サキはいい勢いで飲んだ。料理は可もなく不可もなく、平均点な味で、もちろん悪くない。

「君も僕の素顔を見たいと思ってるんだね?」

「素顔?」

 サキはちょっと驚いた顔をした。

「あはは。素顔と言うか、地よね。地」

 都会的なエッセイストは、かなり庶民派だった。でも、それはそれで楽しさもある。彼女の仕事モードと通常モードのギャップに興味がわいた。

「君の地を、もっと知りたいな?」

「そうね。私、年だから駆け引きが面倒なの。率直に言うわ。私は六条伍銅に興味があるの。結婚とかは考えてないけど、ちょっとお付き合いしたいと思ってるの。どう?」

 あっけらかんとしたストレートな物言いに僕は射貫かれた感じがした。

「喜んで。でも君の期待外れになるかも知れないよ。僕の地を知ると」

「うふふ、あっは。期待するほど子供じゃないわよ。気になった男と付き合う。これで十分楽しめるわ。今日は飲むわよ」

 その言葉通りサキはぐいぐいと飲んだ。焼酎を6杯にワインを1本空けた。ちょっとべらんめえ口調で話すサキに僕も俄然興味をそそられた。

「私、エッセイやコラムが主でしょ?でもって、おしゃれなイメージで売ってるから、まじ大変。本当はハイブランドなんか興味ないのよ。あんなブランドのロゴ入ったカバンのどこが良いの?」

「君も持ってるだろう?」

「ああ、これ?香港で買ったぱちもん。カバンはまだ良いとして、カバンと同じ柄の靴?あれ、必要ですかって?」

「確かに僕もブランドロゴの靴は好きじゃないけど、ハイブランドってやっぱり製品の確かさや品と質の良さ、まさしく品質の良さが魅力かな。素材も良いから肌触りも良く、体になじむ感じで着心地の良さがある」

「はいはい、そうですか。見栄だろうが」

「まあ、見栄もあるさ。でも僕はハイブランドも好きだよ」

 サキは、ちょっと顎を外すように大きな口を開けた。

「か~っつ、おい、熊田。蕎麦持ってきて。〆の蕎麦」

 

 その日、酔っぱらったサキを送り届けて帰った。

 

 

 

今を思う

 いつも稲垣吾郎さんを思っています。毎日吾郎さんの動画も見てます。そんな私が、少し気になる今を思います。私には男の子が一人います。他の人はどう思うかわかりませんが、私には大切な息子です。数年前までは、あまり考えなかった事、それはこの平和が永遠に続くものではないという事。これまでの歴史を紐解いても、過去は常に戦いと平和の繰り返しだったという事。祖父母の世代は戦時中だった事。平和がどれ程もろいかという事。戦争は良くないと誰もが分かっていると私は勝手に思っていました。しかし、私たちが平和に慣れ、政治に興味を持たず、国政の選挙には行かず、アイドルの総選挙にうつつを抜かしている間に、世界は少しずつ戦争へのカウントダウンが始まってしまっているかもしれないという懸念。会社の上司に不満がある人、いるでしょう。でも上司にたてつくと自分の身が危ないので口を閉ざす。会社の上司程度なら、自分の生命までは危険が及ばないかもしれません。ですがこれが国の代表者であったなら?もし、誤った決断をしているなら?その決断によって、失う命があるのかもしれないとすれば?結論は、私は自分の息子を戦争になんか行かせたくない!この世界には今現在も争いがある。日本が安全なんていう時代はもう終わりになるのかもしれない。その不安に胸を痛める事が多々ある。私たち大人は、いつからこんなに自分勝手で、子供みたいなったんだ!給食費は払わないけど、携帯は持つ。親は学校にクレーム。学校は責任を逃れたいので、知らぬ存ぜぬ。新聞を読まない大人。挨拶しない新人職員。自分の権利は主張するが義務は果たさない。もう少し大人たちがもっと平和について考えないと、この先とんでもない状況になってしまうのではないかと危惧してます。誰かが言っていた。今の平和は、先人たちの大きな努力の上に成り立っていると。努力せずに平和は続かないと。母親にとって、子供より大切な物は無いと私は思っています。子供たちのために、せめて自分の子供たちの代は、平和でありますように。孫の代は、子供たちが考えれば良い。そういう考えの出来る子供に私たちがすれば、きっと孫の代も、曾孫の代も平和でいられるかも知れないから。もう祈ったり、願ったりだけでは変わらないかもしれない。平和を継続させるにはどうしたら良いのか、考え行動してみよう。まずは、選挙に行く。納税する。今世の中で起こっていることをきちんと知る。平和の尊さを再確認する。とにかく、子供を戦争に行かせるなんて二度とあってはならないのだから。

稲垣吾郎ドラマ 六条伍銅シリーズ 王子様な生活⑦

        朝日サキの場合

 エッセイストのサキとは、雑誌の取材で知り合った。女優やモデルの様な分かりやすい美人ではないが、知的で佇まいに芯の強さを秘めた美しさがあった。文学に長けているためか、機知に富んでおり言葉の選択がとてもおしゃれで魅力的だった。取材の後で僕がサキを誘おうと思っていたら、サキの方から声をかけて来た。

「六条さん、この後一緒に飲みに行きませんか?」

 唐突な誘いに驚いたが、断る理由はなかった。

「もちろんです。どういう場所がお好みですか?」

「今夜は、まずは六条さんの好みのお店に連れて行って欲しいです。その次は、私のチョイスで。これで2回はご一緒出来るし」

 

 僕の古い友人がやっているバーへ行った。オーナーでバーテンダーの高木は10年来の知り合いだ。店内はあまり広くないが、落ち着いた雰囲気で、高木の出してくれる一皿は、チーズとフルーツの盛り合わせで、お酒の邪魔にならない素晴らしい脇役だ。

「こちらの女性は?」

 高木がサキを見て聞いてきた。もちろん、高木は気の利く男だ。朝日サキだと気付いて聞いてきたのは分かった。

「朝日サキさんだよ。今日は仕事でご一緒してね、その延長戦さ」

「こんばんわ」

 サキは軽く会釈をした。

「やっぱり。うちの妻が朝日さんのコラムが好きなんですよ」

「ありがとう。もしかしてファッション誌の?」

「そうそう。負け犬女の遠吠え?でしたっけ?」

「はい。あのコラムが好きってことは、奥様は・・・、ご主人に不満があるのかも!」

「ええっ、そうなのかな~」

 高木が少し動揺したのが面白かった。

「思い当たることがあるのかな?」

 僕の質問に少し考えた風だったが、すぐに高木は答えた。

「多分、たくさんあるだろうさ」

「マスター、冗談ですよ。あのコラムは女性一般の不満や普段言えないことを、私が代弁してるの。みんな自分が負け犬だって気づいているけど、でもまだ諦めない。私が悪いんじゃない!周りがバカなのよって体で、うまく収まりつける感じです」

「なるほどね。で、どんなお酒がいいですか?」

「結婚も出産も諦めた女が、いい女風で頑張ってる、こんな私を癒してくれる一杯で、ちょっとフルーティで軽めのをお願いします」

「かしこまりました。伍銅ちゃんは?」

ジンベースのを頼みます」

 

 高木の作るカクテルは間違いなくおいしい。

「今日はお疲れさまでした。この出会いがこの先素敵な展開になる予感が、私するの」

「朝日さんの『マンハッタンとニューヨーク、そして東京』僕、読みましたよ」

「ありがとう。あのエッセイがドラマの原案になったおかげで、今の私があるんですよ」

 10年程前に、サキのエッセイが原案となった連続ドラマがヒットした。僕も出演オファーがあったが、ちょうど裏番組の関係で断ったのだ。アメリカで知り合った男女が恋に落ちるが、アメリカでの二人の装いとは違って、東京に戻ってきた二人は、全くおしゃれでも特別でもない普通の二人だった。と言うストーリーで、背伸びしている自分と等身大の自分といったコンセプトが、20代、30代の男女で話題になっていた。

「あのエッセイは、自分の体験ですよね?」

「まあ、エッセイですから・・・。でも全部が本当じゃないわ。全部さらけ出したら、私消されちゃうわ」

「なんで?」

「うふふ、女もこの年まで生きてると色々ありますから」

「失礼だけど、幾つ?」

「ああ~、六条伍銅でも聞くんだ~」

「いや、聞かなくても勿論良い。魅力的な女性はそれで十分だからね。でも、聞けるなら聞くかな」

 聞いたほうがスマートな感じがした。

「39。伍銅さんと同じよ」

 さらりと言った。そしてこう続けた。

「ほら、女って子供が産める年のころは、出産ありきで付き合うでしょう。でも、私そういう事ないので、物凄くプレッシャー無いですよ」

 すでに気持ちは朝日サキに掴まれていた。

稲垣吾郎ドラマ 六条伍銅シリーズ 王子様な生活⑥

 ラジオの収録で、僕はれいとの思い出のデートを話題にしてみた。

『こんばんは。六条伍銅のラグジュアリーアパートメントです。いつもは青山や広尾のおしゃれなお店のデートや、何もない、ゆったりした時間だけが合う海外のリゾートホテルのお話をしていますが、今日はいつもと違って、ちょっと素顔なデートプランを提案します。今日のデートの場所は、彼女の家です。僕は1輪の花を、そうだなあ、白のカラーを持って彼女の部屋を訪ねます。すると、いつもはスタイリッシュな彼女が素顔に眼鏡、服装は部屋着。う~んと、白と紺のボーダーでモコモコしてる上下。下はちょっとショートパンツタイプですね。その装いで僕を招き入れてくれます。そして彼女が僕に「はい」と渡す物。なんと黒のスエットの上下。これを僕に着るようにと渡してくれるんですね。くつろぐ気分満々ですよ。彼女の手料理は、豚汁と豚のショウガ焼き、菜の花の辛し和えで、ふつーの家庭料理。でもこう言う普通の物が作れるって、素敵ですよね。その料理には缶チューハイですね。ぐいっと飲んで、映画を見ますか。いつもなら映画のオリジナル感を損なわないように字幕で見ますが、この時は映画に見入ったりせず二人の会話も楽しめるように吹き替えで見ます。吹き替えなら多少画面から目を離していても、内容が分からなくなりにくいですからね。英語が得意なカップルは字幕でもOKですね。こんなふつーなデートもたまにはいかがでしょう?こう言う時はコタツですよね。夏はコタツ布団を外して、家具として使うやつですよ。クッションじゃなく座布団が良いですね。その座布団を二つ折りにして枕代わりにして床に横になっちゃう。中年オヤジ丸出しですね。こんな六条伍銅、ちょっと想像したらうけますよね。では、曲を1曲。SMAPで笑顔の元気です』

 

 収録後、吉川マネが嬉しそうに言葉をかけて来た。

「伍銅さん。今日のデートプラン良かったです。どうしたんですか?とっても親近感湧きました。素顔の六条伍銅ですか?」

「たまにはね、手だ届きそうな感じも良いかなって思いました」

 丁寧におどけて答えた。

 

 後日、このデートプランがリスナーから評判だとスタッフから聞かされ、数回れいとの思い出デートを語ることになった。

 

 6年付き合ったれいと別れた後、すぐに僕は新しい恋をした。エッセイストの朝日サキ。彼女とは運命の出会いだと思ったほど、一瞬でひかれあった。知的で情熱的、更に個性的で抜群な言葉のセンスに僕はひかれた。・・・結論を先に言うと、燃え上がるのも早かったが、燃え尽きるのも早かった。友人としては最上級の女性ではある。

イマゴロスマップ⑥

 久しぶりにイマゴロスマップです。全く私の個人的な見解です。芸能人って皆さん虚と実があると思います。例えば中居さんの場合、虚の部分がTVのバラエティーに向いている感じがします。実の部分ではTVは回らない、虚の中居さんによって回せる感が出てきます。ちょっと中居さんが出すぎる感じもしますが・・・。でもたいていの人は、虚の方が面白いと思います。芸人さんなんかは特に。じゃあ吾郎さんは?吾郎さんの場合は、虚よりも実の方が面白い方だと思います。実の部分はちょっとカルトな番組、タモリさんの深夜番組の様なレーベルが合ってると思います。ちょっとした毒と、時間割がゆるい感じでカットされる部分が少ない番組で、マニア受けする題材を扱うとクスッとした面白さが出るような感じがします。声を張らずに、深夜にこそこそってやる感じ、吾郎ちゃんの実の面白さが伝わるよね~。スマートでエレガントな天然男子。好きです。

稲垣吾郎ドラマ 六条伍銅シリーズ 王子様な生活⑤

 れいの前に付き合った女性は、みんな同じような言葉を口にした。

「いつになったら、本当の顔を見せてくれるの?伍銅さんがいつもそのままだから、こっちも気を張ってなくちゃいけなくて、疲れちゃう・・・」

 女優やモデルは見られていることを意識しているが、素の自分の戻ると違うようだ。メディア用とプライベート用の顔を持っている。それが、僕がいつまでもイメージ通りなのでみんなしびれを切らして去っていく。れいは初めて自分から女優の皮をはぎ取って、僕に前にその素顔をさらした。一体、どうすればいいんだ?れいのことはもちろん好きだ。このままいつも通りにすると、きっとれいは自分が嫌われたと思うだろう。偽りの素顔を演じるべきか?

 悩んでいる僕にれいはスエットの上下を差し出した。

「着替えて、この方がくつろげるでしょう」

「いや、あれ・・、ありがとう」

 黒のスエットに着替えてみる。正直この方が落ち着かない。自宅では、お風呂上りならバスローブだし、パジャマならシルクの肌触りが好きだ。一気に中年オヤジになった気がする。年齢は十分中年だが、僕の美的センスがむずむずする。

「私、実はこんなコタツや座布団が落ち着く普通な女の子なんです。都会的なイメージで売ってるから、いつも流行に敏感なふりしてるけど、本当はジャージにパーカーでも全く気にしないし、お化粧も好きじゃないの。伍銅さん、こんな私駄目ですか?」

 子供っぽい口調でれいが聞いてきた。う~ん、女の子のジャージにパーカーって、中学生なら許すけど、って言うか、そんな格好の女の子に自分が合わせる格好ってこのスエットの上下か?冗談じゃない。こんな格好で外なんて歩けないよ。でも今それを言える状況じゃあないよな。

「自分の家の時は良いんじゃない?自分の家なんだからさ。ただ外に出かけるときはちゃんとしようね」

「はあ~い。わかりました」

 おどけたようにれいが言った。

 この日を境に、れいの家で会う時は、僕は渡されるままに黒のスエット上下を着るようになった。夏はハーフパンツにTシャツが渡された。全く落ち着かないが、れいの家に行くのは月に1・2回程度なので我慢できた。外での食事やゴルフには以前の様におしゃれな格好で出かけていたし、僕の家で会う時は、自分が落ち着く音楽やアロマ、シルクのパジャマで過ごした。れいは物凄い甘えん坊で、二人の時は『伍銅ちゃん』と呼ぶようになった。付き合って4年程経った時、写真週刊誌にれいが僕にマンションに出入りするところを撮られた。お互いの事務所は『信頼できる友人として良いお付き合いをしているようです』とコメントし、僕もれいも明らかな否定はしないでいた。そのため、交際は事実で結婚が近いと騒がれていた。そう、れいは30歳になることで、明らかに結婚を意識していた。

「私、女として子供を産みたいし、となると30歳って一つの区切りなの。伍銅ちゃんは結婚とか子供ってどう考えてるの?」

 とうとうれいが結婚について切り出してきた。れいの事は好きだ。かわいいし思いやりもある。ただ・・・、れいが料理を盛り付けると、いつもメインは同じ白い皿に盛る。肉じゃがでもカレーでも同じで、サラダも同じだ。100円ショップの皿らしい。僕は器にもこだわるタイプだ。結婚して子供が出来たら、もっと雑な生活になるだろう。子供はかわいいと思うが、僕が子供のおむつを替えたり、子供の使う様なプラスチックの皿にワンディッシュの様に食事を盛り付けられるのは辛い。僕は、重たい口を開いた。

「君の思う様な結婚観ではないと思うよ」

「どういう意味?」

「僕は、みんながくつろげると思う様な事、例えば短パンとTシャツでソファーに横になり、ポテチを食べながらTVを見たり、トイレで新聞読んだり、靴下を洗濯機に投げ入れるとかお風呂上りにバスタオル巻いて、缶ビールをくいっと飲むなんて事が、全くくつろげないんだ」

「えっ!」

「ゆったりしたクラッシック音楽に好みのアロマオイルを部屋で楽しみたいし、飲み物はきちんとグラスで飲みたい。口当たりが気になるのでグラスは薄いほうが好きだ。お風呂上りはバスローブの方が落ち着くし、食器にもこだわる。背筋が伸びているほうが楽だし、体育座りは疲れる。子供は・・・」

「子供は?」

「好きだよ。でも、子供の事で生活が乱れるのは、正直望んでないかもしれない」

 れいは首を左右に振った。そして声を荒げた。

「もっと上手な振り方ってあると思う。私と結婚する気はないって事ね?そんなのがくつろげないなら、言えば良かったじゃない。そんなウソついて、最低!」

「君が何で怒るのか分からないよ。だって本当の事なんだからさ。れいが好きだから、れいの家では合わせてたんだ。でも毎日になると僕が耐えられないかもしれない」

「はあ?どうせ私はジャージで缶チューハイ飲むような下品な女です。どうも失礼しました」

 その日、初めてれいと喧嘩した。

 

1週間後れいから電話があった。

『色々考えたら、伍銅ちゃんって、私の家以外はずっと六条伍銅だったなあって気づいたの。私が女優のままでずっと生活すると疲れるように、伍銅ちゃんは逆にだらしないのが疲れるんだよね。私、今すぐ結婚しなくても良いの。やっぱり伍銅ちゃんが好きだから。私も頑張る』

『悪いね』

 その後も交際は続いた。れいは僕を何とか一般的な中年男にしようと頑張ったが無理だと気付いたようで付き合って6年で別れる事になった。後にも先にも、6年も交際したのはれいだけだった。どんなに好きでも価値観を埋めるのは難しいと思った