カウンセリングのビタミンC

生きると言う格闘技に一休みを。

ちょっと怖い話 その③ 家族の箱

 吉田京子、79歳、現在一人暮らし。間もなく80歳になる。2歳年上の夫は8年前に他界した。肺癌だった。子どもは2人で長男、長女。

 

 長男の和也は53歳でバツイチ、現在独身。9年前に離婚した元妻との間に14歳の男の子と10歳の女の子がいる。親権は元妻が持ち、養育費は月々4万円支払っている。仕事は電気会社の営業課長だが、年収はずっと頭打ちの状態で400万円程度。賃貸のアパートの住んでおり、今は会社の30歳の子持ちバツイチの女性社員と付き合っているが、経済面や互いの子どものことを考えると、なかなか再婚には踏み切れないでいる。

 

 長女の美雪は49歳、独身で看護師。収入面は固いが、男運がなく、今は夢見る中年男に貢いでいる。29歳の時、付き合っていた自衛隊員と、結婚寸前までいったが、相手はギャンブル好きで300万円ほどの借金があるのが分かり、結婚するのをやめた。次に付き合ったのは、年下の研修医で食事や洗濯など、彼のマンションでかいがいしく世話していたが、研修期間が済むとあっさり捨てられた。現地妻扱いで、元々開業医の娘さんと付き合っており、二股をかけられていた。その後は付き合う男は殆ど美雪のお金目当ての、定職につかない男だ。まさにダメンズウォーカーだ。医者に二股かけられて捨てられたのがトラウマとなり、以降は自分が優位に立てる相手ばかり選ぶようになってしまったのだ。

 

 現在京子は、健康面で不安になっていた。預貯金は、夫が死亡した時は3千万円あったが、和也が養育費を滞納してその分を無心してきたり、時折顔を出す孫に小遣いを渡したり、和也の元妻から、孫の塾の費用を相談され用立てたりした。美雪は、生活に余裕があるはずだが、京子が和也に、何かと金銭面での援助をしているのが、気に食わないようで、そのことを持ち出し、ブランド物のバッグや交際相手の楽器などの支払いを京子にねだってくる。結局は京子が出す羽目になる。亡くなった夫は公務員だったので、遺族年金を京子は受給しており、生活は贅沢しなければ何とかやりくりできるが、もし病気になって入院などすれば、いやその前に階段で転んで骨折などして動けなくなったら、誰かに発見された頃には、白骨化しているかも知れない。年々足腰も弱っている。そろそろ一人暮らしに終止符を打とうと考えていた。

 そんなある日、京子の元に市役所から職員がやって来た。

ユリ「初めまして。私新しく開設された部署で、独居対策課のコーディネーターの宮川ユリと申します。今日は吉田さんの家庭環境について、お話し聞かせてもらえますか?」

 ユリは40歳位の小柄な女性だった。媚びる様子でもなく、しっかりしていて、でも親しみやすい印象の人だった。一人暮らしの状況や、子どもたちのこと、不安に思っていることなどユリに話した。ユリは2週に1度訪問に来た。自分の子どもたちより、親身に話を聞いてくれるユリの訪問をいつしか京子も楽しみにするようになっていった。

 

 ある日、京子はユリに相談した。

京子「私もう年齢的に80歳になるので、そこを目途に今後を考えようと思っているの。どちらかの子と一緒に暮らそうかと思って。家も古くなってきてるので、500万円ほどなら工面できるので、リフォームしてって思うんだけど」

ユリ「どちらのお子さんも同居を断ったら、どうされますか?」

京子「ああ、そうね。なら施設でしょうか。でももう私の預金は1千万円を切ってます。年金だけで入れる施設はどうですか?」

ユリ「1年以上の待ちになると思います。あと、身体障害ですとか、認知症だとかの人が優先されますし、吉田さんだと少しお高いですが、高齢者住宅か少し自由度の高いグループホームが良いかと思いますが」

京子「はあ、そういう施設はおいくらぐらいかかるのですか?」

ユリ「そうですね。一概には言えませんが、入所時に2千万円払うタイプもありますし、入所時の支払いが無い分、毎月自分の持ち出しが20万円くらいの所もあります。そう言う所はスタッフが在中しており、サービスも充実してますね」

京子「はあ、20万も。年金で足りない分、ほぼ毎月10万円持ち出すと、5年も経てば破綻だわ」

ユリ「ご家族で良く話し合って、それでお決めになってください。言いたいことや、吉田さんの希望とか、今まで黙って箱にしまったものを解放するのが良いと思います」

京子「箱?」

ユリ「ええ、家族の箱です。パンドラの箱の様な。都合の悪いことや面倒な問題を解決せずに、とりあえず箱にしまっている、先送りしている事柄や、言えない本音などが詰まってる家族の箱です。もう開ける時期が来たかもしれません」

京子「家族の箱ねえ・・・」

 

 数日後。長男、長女が京子の家にやって来た。ユリも同席した。

和也「話って何?と言うか、この方は?」

ユリ「初めまして、市役所職員の宮川です。独居の方々の日々の状況を確認しております。私が吉田さんの担当でして」

美雪「ああ、母がお世話になっています。で、お母さんの話は?」

京子「もうお母さん80歳になるし、ここらであんたたちのどっちかと同居しようかと思って。家も古くなったからちょっとリフォームしてさ」

和也「リフォーム?いくらかかるの?誰が出すの?」

京子「まだ業者さんに聞いてないから。でも500万円くらいまでなら出そうかなと思って」

美雪「もったいない。お母さん、あと何年生きるの?我慢してこのまま住んでればいいじゃない」

京子「でも、ほらあんたたち、いっつもここに来たら古いとか、風が入るとか言うから」

美雪「あら、私は別に、このままでも。どうせ同居なんかしないし。お兄ちゃんでしょ。一緒に住むなら」

和也「はあ?なんでだよ。嫌だよ。大体、職場がここから通うとなると、今より30分くらい余計にかかるし、無理だよ」

美雪「いいじゃない、30分くらい。ご飯も作ってくれるし、洗濯もしてもらえるわよ」

和也「俺には彼女がいるの。今真剣に結婚考えてるのに、ばばあ付きなんて言ったら、絶対別れるって言われるよ」

京子「ちょっと、和也結婚するの?」

和也「まだ分かんないけど。でも母さんと同居したら結婚もなくなるかも知れないから、悪いけど俺は無理」

京子「じゃあ、美雪は?看護師さんだから心強いわ」

美雪「冗談じゃない。あたしの生活を、お母さんの介護に当てるつもり?あたしにだって彼氏がいるのよ」

和也「あの、ミュージシャン目指してるって言う、カラオケの店員か?」

美雪「いいでしょ。人の彼氏を悪く言わないでよ」

和也「あいついくら稼いでるんだよ?お前のヒモみたいなもんだろ」

美雪「なによ、馬鹿にして」

 長男、長女が、母である京子を明らかに邪魔だと言わんばかりにやりあってるのを見て、切なさいっぱいのまま京子が言った。

京子「2人ともやめて。どっちもお母さんと住む気がないなら、お母さん施設に行くから」

美雪「施設っていくらかかるの?年金だけでやりくり出来る所にしてよ」

ユリ「吉田さんが希望されている所ですと、年金だけでは難しく持ち出しが必要になります。ですので、お二人に援助をお願いするかも知れません」

美雪「冗談でしょ!なんで私たちがお母さんが施設に入るのにお金出すの?」

和也「俺も無理無理。養育費もあるし。もし再婚になったら、少し母さんに結婚資金出してもらうつもりだったのに」

美雪「お兄ちゃん。50歳過ぎて結婚資金親にせびるってちょっとおかしくない?」

和也「仕方ないだろ、不景気なんだから。お前は看護師だから給料いいもんな」

美雪「じゃあ、自分も看護師になれば良かったじゃない。だからって、お兄ちゃんばかりお金渡さないからね!」

京子「ちょっとやめなさい」

 京子が声を荒げた。和也も美雪も一瞬たじろいだ。ユリがゆっくり口を開いた。

ユリ「では、お二人とも、一緒には住まないし、金銭的な援助もしないと。それどころか、自分たちの方が金銭を要求すると」

京子「もう、お母さんには1千万円もないの。葬式代やこの家の後始末、永代供養の費用とか考えると、使えるお金はもう500万円だけ」

美雪「葬式なんてしなくていいじゃん。散骨してさ。永代供養もしないで」

和也「そうだよ母さん。この家売っちまって、母さんは安い施設入ってさ、出来るだけ今あるお金に手を付けないようにして、そして死んでくれたら」

京子「わあ」

 京子が顔を手で覆って泣き出した。

美雪「お兄ちゃん、ひどいわ。大丈夫、お母さんの施設は私が探すわ。ねえお母さん、お金のかからない所探すから、そしたらお金の方は私が管理するから」

和也「お前、うまいこと言って、母さんの金取る気だろう」

美雪「なんですって!今までさんざんお金貰ってたくせに」

 2人のやり取りに憤慨した京子が言った。

京子「もう、帰って!あんたたちの気持ちはよくわかったわ」

 

 30分後。少し落ち着きを取り戻した京子にユリが声をかけた。

ユリ「吉田さん。家族の箱からは、自分勝手、傲慢、金銭欲、色々飛び出してしまいましたね」

京子「子どもなんて当てにならないわね。分かっていたけど、お金しか考えていないのね2人とも。私のことなんてどうでもいいのよ」

ユリ「吉田さん、パンドラの箱には最後に希望が残ってましたけど、吉田さんの家族の箱には・・・、ああこれが残ってたみたいです」

 予期しなかったユリの言葉に、京子は少し驚いた。

京子「えっ、何が残ったんですか?」

ユリ「・・・残ったのは、孤独でした」

 

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ちょっと怖い話 その2 女子の好感度

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 金曜日。

 とある高校の2年5組の教室。みなみが入ってきた。

「おはよう」

 ちょっとはにかむような笑顔で、男子に挨拶するみなみ。男子に一番人気の女子だ。その様子を6人グループの女子が見ている。互いに目配せをする6人。

「みなみ、おはよう!って、女子にも言ってよ」

 6人グループの一人、優樹が大きな声で言った。優樹はグループのリーダー的存在で、クラスの中でも一目置かれていた。中学時代はヤンキーだったようで、姉御肌で裏表のない性格だ。その優樹の声にみなみが反応する。

「ああ、優樹おはよう。ごめんね、見えなかったの」

 みなみの言い方は、決して嫌な言い方ではない。だが、そう言う部分も他の女子たち、特にこの6人グループは良く思っていない。男子に人気のみなみ、クラスで中心人物の優樹。相対する二人はある意味クラスの双璧だ。

「また、かわい子ぶっちゃって」

 優樹が言うと、他のメンバーもうなずき、言葉を続ける。

「男子って、本質が見えてないんだよね」

 美憂が言った。

「裏では何言ってるかわかんないよね」

「やっぱ、そうなのかな。怖い」

 由香とさくらが言った。

「ホント。うちの彼氏もみなみ可愛いって言うし」

 涼香が言うと、その言葉に奈々子が何かを思い出したようだった。

「そう言えば、涼香。・・・後でちょっと話あるわ」

「えっ、ああ。後の方が良い?」

「うん。2人の方が良いかな」

 その言葉に優樹が食いついた。

「ちょっと、うちらに内緒で話ってなにさ?」

「う~ん、海斗のこと。涼香にだけ教えれば良いかな」

 困ったように奈々子が言った。

 海斗とは、隣のクラスにいる涼香の彼氏だ。涼香が1年の頃から好きで、勇気を出して告白し、2カ月前から付き合いだした。まだお互いの家に行ったことは無いし、外でのデートも2回だけ。LINEのやり取りと、たまに近くの駅まで一緒に帰るくらいだ。

「海斗のこと?じゃあ、いいじゃん。みんな協力して涼香が付き合えるようになったんだし、みんなに話しなよ」

 優樹の言葉に奈々子は渋い顔をしたが、丁度先生が入って来たので、とりあえずみんな自分の席に着いた。

 

 昼休み。結局優樹に押し切られる形で、奈々子はみんなに話をした。

「大したことじゃないんだけど、昨日の開校記念日、海斗とみなみが一緒にモールで買い物してたんだよね」

 昨日は開校記念日で学校が休みなので、涼香は海斗にどこかに行きたいと言ったが、家族の用事があると言って、断られたのだ。

「えっ、うそ」

 涼香が言うと、優樹が声を荒げた。

「ちょっと、ちっとも大したことだよ!なんですぐ言わないの?」

「いや、一緒に買い物してたと言うか、モールで一緒にいたの見かけたって言うか。私もママと一緒だったから、2階から1階を歩く2人を見かけただけだから。たまたま2人も偶然会っただけかも知れないしと思って。だから涼香にそれとなく聞いてみようかなと思ったんだけど」

 奈々子は、優樹に知れると面倒なことになると分かっていたので、失敗したと思った。

「わかった。あたしがみなみに言ってやるわ」

 優樹はそう言うと、すぐにみなみを引っ張ってきた。

「ちょっとあんた。昨日海斗とどこ行ってたのさ?」

 突然呼びつけられたみなみは困惑した表情で答えた。

「昨日は・・」

 みなみはちらっと涼香の方を見た。涼香は泣き出しそうな顔だ。

「モールに買い物に行ったら、偶然海斗に会って。それで、ちょっと話しただけだけど」

 優樹は腕組みしながら、みなみを斜め上から見下げる。

「へ~、偶然。あんたさ、海斗と涼香が付き合ってるの知ってんでしょ!人の男にちょっかい出すの止めなよね」

 みなみは、涼香の方を再びちらっと見た。涼香はまともに、みなみを見ることが出来ない。みなみと海斗は小・中も同じ学校で元々仲が良かった。家も近いので一緒に帰ることもあったし、海斗はみなみのことを、可愛いと言っていたので、涼香にとってみなみは脅威だった。もし、みなみの言うように、偶然会ったにしても、せっかくの学校の休みに2人で出かけたかった涼香にとって、海斗が家族の用事と言って涼香の誘いを断ったのもショックだった。海斗が一人でモールに行っていたなら、涼香に嘘をついていたことになる。

「涼香。ホント海斗とは偶然会ったの。ホントだよ。海斗、あの後授業終わりのお兄ちゃんと待ち合わせしてるって言ってたから」

 みなみが涼香に向って言った。

 確か海斗の兄は、大学2年生だ。みなみの言葉を涼香が信じようとした時、優樹がまたまくしたてた。

「また、適当な嘘ついてんじゃないよ」

「嘘じゃないって。ねえ、涼香。本当に私と海斗は何でもないから」

 チャイムが鳴り、昼休みは終了した。奈々子は、不用意に口にした自分を責めた。一方、優樹は自分が悪を懲らしめている気分でいた。

 

 土日は、6人グループの誰かと遊ぶことが多いが、今週は珍しくみんな用事があって駄目だった。土曜日、優樹は暇つぶしにみなみにLINEを送り満足していた。

 

 月曜日の朝。5年2組の教室。

「おっはよー」

 優樹が元気よく教室に入り、すでに席に座っていた美憂に話しかけた。

「あ、おはよう」

 美憂の返事はそっけなかった。美憂はすぐに隣の席の男子と話し始めた。いつもは優樹が教室に入ると、グループのみんなが近寄って来るのだが、今日は誰も近寄らなかった。由香と奈々子、さくらが3人で喋っており、涼香はみなみと話している。

「なんか、変じゃね」

 優樹が独り言のように言ったが、誰も反応しなかった。休み時間も何となく、よそよそしさを優樹は感じていた。

 昼休み。業を煮やした優樹が言った。

「ねえ、ちょっと何なのさ。さっきから、あたし無視してさ」

 優樹は不満をぶちまけた。みんな顔を見合わせている。

 涼香が口を開いた。

「優樹、土曜日にみなみにLINE送ったじゃん。あれ、ひどくない?」

「えっ?何のこと?」

「とぼけないで。土曜日、みなみが海斗の家にいる時にLINEが来て」

「意味わかんない。どう言うこと?みなみが海斗の家にいたんじゃ、やっぱみなみと海斗が怪しいじゃん」

「あのね、みなみは海斗のお兄ちゃんと付き合ってるんだって」

 さくらが言うと、続けて奈々子が言った。

「私もこの前は、海斗とみなみのこと話しちゃって、涼香と海斗がおかしなことになったらどうしようって、責任感じてたんだよね。だから、金曜日に海斗に聞きに行ったの。そしたら、みなみは海斗のお兄ちゃんに、海斗は涼香へのサプライズのプレゼントを買いに行ってたんだって」 

「えっ、そうなの?」

 意外な展開に優樹は驚いた。そして慌てて言葉を続けた。

「でも、でもさ。だからってわざわざ海斗にLINE見せなくてもいいんじゃない?」

 優樹の言葉に涼香が反応した。

「みなみは、そんなことしないよ。優樹がみなみにLINE送った時、私もいたの。4人で海斗の家にいたの。みなみはLINE見てすぐスマホ閉じたんだけど、様子が変だからって海斗のお兄ちゃんがみなみのスマホ見て。したら、あんまりひどい内容だって、海斗に見せて、それで」

「えっ?」

 動揺する優樹。

「結局、優樹って私のことバカにしてるんだよね。私だけじゃない。海斗のこともバカにしてる。みなみのことだって、男子にもてるみなみに嫉妬してるだけじゃん」

 強い口調で涼香が言った。

「そうなんだよね。なんだかんだ言っても、みんな、みなみみたいに男子に可愛いって思われたいんだよね。みなみは別に悪いことしてないし。今まで優樹に言われて、私たちみなみのこと嫌いって思ってたけど、本当は嫌いじゃないもん」

「私も。優樹みたいなヤンキーキャラより、みなみみたいな可愛い女子キャラの方が得だしさ」

 由香と美憂が言った。

「なんなのさ、あんたたち。もういいよ。友だちじゃない」

 そう言うと優樹はみんなから離れて行った。

 

 2週間後。

「もう2週間も学校来てないけど、優樹どうするんだろう」

 さくらが言った。

「ホント。そう言えば、優樹中学の頃、嫌いな子をいじめて不登校にしてやったっ言ってたよね」

 奈々子が続けた。

「今じゃ、自分が不登校か。あれ、こう言うの何て言うんだっけ?四字熟語で」

 涼香が聞いた。

「因果応報」

「さっすが、みなみ」

 涼香の隣には、みなみがいた。

 

 みなみは、心の中で思った。絶対このLINEは消さない。

優樹:あのさ、海斗のことだけどさ マジ人の男取るの止めな!

   ホントは海斗のことなんか好きじゃないのバレバレだし

   人の幸せ壊すのが楽しいんだろ

   趣味わるっ!

   涼香にとっては やっと出来た彼氏なんだよ

   涼香はみなみみたいに 男子にもてないし 可愛くないからさ

   そんな子の男とって 何が面白いのさ

   男の人気とろうとかわい子ぶるのはもうやめろ!

   男子が言うほどあんた可愛くないし

   海斗だって 大したことないし あたしなら彼氏にしない

   だから 海斗とってもあたしに勝ったことになんないからさ

   わかったらおとなしくしてなよ

   じゃないと クラス総出で追い出すよ

    

優樹:既読スルーしてんじゃないよ!

    

 

 人はそう簡単に変わらない。だが、周囲の評価はちょっとしたことで180度変わることがある。特に女子の好感度は。

 

ちょっと怖い話 その1「いじめの無い学校」

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 ある県内の高校。ちょっと郊外にあるため、ここ最近は生徒数が集まらず、閉校の噂もある。

 1年3組。宮田は、自分で思い当たる理由もなく、同じクラスのほぼ全員の男子から無視されている。特に中心となってる5人グループの山田と小野寺は、聞こえるように宮田の悪口を、時には大声で言う。勿論教師のいない時にだ。

「あ~あ、入学した時は良い奴だと思ってた~」

「あいつバカなのに性格も悪い」

「どうせバカだから、留年するし、そしたら同じクラスにならない」

 など言うほかには、掃除の時宮田の机だけ運ばない、体育祭でのペアを嫌がるなど、宮田は両親に心配かけたくなくて、何も言わずに通っていた。

 この5人グループ以外の男子は、なぜ宮田がそこまで言われるのか分からなかったが、自分が同じ標的になるのが嫌なので、なるべく宮田と距離をとっていた。

 

 この日、インフルエンザで休みの担任に代わって、今まで見たことのない教師が朝のホームルームにやって来た。40代の女性教師だ。

「おはようございます。初めまして坂手と申します。今日は、加納先生に代わってちょっとお話しさせていただきます。今日はこのホームルームと1時間目の授業を受け持ちます」

 坂手と名乗るその女性教師は続けた。

「まず、今この学校が存続の危機にあることを知っていますか?理由は、生徒数の減少です。去年から私立の楓女子高校が男子の受け入れを始めたので、立地的に不利なこの学校は、人気が無いです」

「え~、まじ無くなるの?」

 山田が声を出した。

「そうです。山田君、困りましたね」

 坂手は山田を認識していた。名前を言われた山田はちょっと驚いた。

「実は、この学校に生徒を呼ぶために、これからこの学校は『いじめの無い』学校に変換することになりました」

 宮田君は、心の中でつぶやいた。

「そんなこと出来ないよ」

 宮田君は、担任や副担任に嫌がらせをされることを相談したが、何も変わらなかったからだ。

「宮田君、どう思いますか?」

 急に心を見透かされたように、坂手が宮田に問いかけた。

「えっ、いや、分かりません」

 宮田は自分がいじめの標的であることを、言うのを躊躇した。

「実は、この学校は、AIの学生と共存する日本初のモデル校として再スタートします。そしていじめの無い社会を作る、基盤としての役割も担います。なので、今この中にいじめている人がいるならば、排除します」

 坂手が教室を見回し、小野寺に声をかけた。

「小野寺君、君は宮田君の机をいつも掃除の時運ばないよね。それはなぜ?」

 急に話を振られた小野寺は驚いた。

「いや、そんなことは無いです」

 心の中で小野寺は、宮田がチクったのだと思った。するとすかさず坂手が言った。

「宮田君は何も言っていません」

 そして坂手は続けた。

「町村くん。君はなぜ宮田君と同じ班になった時、絶対宮田君とは口を利かないのはなぜですか?」

「う・・・」

 5人グループの一人である町村は、坂手の言葉に何も言えなかった。

「奥山君はどうですか?」

「・・・それは、みんながそうだから」

「みんながするから、自分もすると・・・」

 坂手はそう言うと、天井を見上げた。

 5人グループの名前が呼ばれる。まだ呼ばれていない井上は、ドキドキしていた。井上は5人グループの中でも、一番立場が弱かった。山田や小野寺と同じサッカー部で、クラスではじかれたら、部活でもはじかれてしまうのが怖かった。

「じゃあ、井上君。君もそう?みんながするから自分も同じように、宮田君を無視してた?」

 やっぱり自分の名前が呼ばれたと、井上は思った。

「・・・はい」

 か細い声で答えた。

「それじゃ、井上君は、みんなが死んだら君も死ぬのかな?」

「いや、それは無いです」

「いやいや、君は自分の考えで行動できないのだから、みんなに合わせましょう。そのみんなって、何だろうね?」

 坂手は生徒の反応を読み取っていた。

「この5人だけではないです。彼らの様子を知っていながら、見て見ぬふりの傍観者も同じです。この学校は、自分の考えで、正しい行動を出来る生徒を社会に送り出す。それが今後のこの学校の第一理念です」

 教室が少しざわつく。

「実は、この学校はある方がすで買い取っており、新理事長から私は全権限を委託されたAI教師です」

「ええ~、うそ!」

「マジか!」

 などなど、教室内がざわつく。

 坂手はポケットから小さな何かを取り出し、教壇の上に置いた。

「これは、AIチップです。5人分あります。このチップを5人の体を借りて埋め込みます。そうすると、脳はAIが支配して、いじめはしてはいけないと認識しており、その人は良いAI人間になります」

 クラス委員の山崎が言った。

「先生、それって、その5人はどうなるんですか?」

「体は残りますが、実質的な脳はAIが乗っ取ります。新たに生まれ変わるので、まあ死ぬようなものですね」

「なんだよ、それ!」

「そんなこと、許されないぞ!」

 口々に声を荒げる生徒たち。勿論5人グループは気付いている。チップが5つ。要するに埋め込まれるのは自分たちだ。そんなこと出来るわけないと思うが、これは一体何なんだ!山田は怒りに震えた。

「みなさん、この学校はモデル校に認定されています。日本政府からです。今から、呼ばれる5人にはチップが埋め込まれます。この場にいる他の生徒さんは、このことを口外した途端、同じようにチップが埋め込まれます。逃げられません。気付いていないようですが、もうすでに校舎内は監視されており、死角はありません。複数のAI教師がすでに動いています」

 坂手の言葉が終わらないうちに小野寺が教室を飛び出そうとしたが、すでに体は動かなかった。椅子から立ち上がれず、目以外動かせる部位は無かった。もう、声も出せない。

 

 

 春。

 新入学生が久しぶりに前年度の入学生徒数を上回った。

 新入学生の母親たちが立ち話をしている。

「この学校、全くいじめがないんですってね。安心だわ」

「本当に。うちの子中学時代いじめで、親も苦労したから」