読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ゴロチマニア 

日比日向多が勝手に稲垣吾郎さんを語ってます

稲垣吾郎ドラマ  アザーセンス 霊感心理カウンセラー 六条伍銅② 

 他の人に見えない「何か」が見える以外に、人の心が読める事に気づいたのは、小学校2年生の頃だった。それまでにも何となく、人の感じている事が分かる感じはあったのだが、自宅で家族と夕食を摂っている時、デザートに出てきたチーズケーキを食べた僕は、「レモンじゃなくって酢を入れたんだ」そう言うと、母が驚いて言った。

「あら、バレちゃった?」

 僕は不思議そうに言った。

「だって、お母さんが『レモン忘れちゃったから酢入れたけど、大丈夫かな』って、言ったから」

「いつ?あら、言ってないわよ。多分」

「さっき、ケーキ出してくれた時だよ」

 僕に言葉にみんな不思議がったが、祖母は小さく頷いた。そして母に向かって祖母が言った。

「由希子さん、目覚めたようですよ。でもまだ能力を使うには早すぎるわね」

 そう、僕は人の心が読めるのだ。ふいに心の声を読める場合もあれば、出来事を映像のように感じる事も出来る。その時の体調や対象者との波長によって変化はあるのだが、能力のコントロールは難しく、子供だった僕が祖母の言う人の『心の箱』を不用意に開けるのは危険だと危惧した祖母により、その能力は一時封印されたのだった。

 その日の夜、祖母は僕を自分の部屋に呼んだ。部屋の中はお香の匂いがした。祖母は古風な面立ちとは違い、意外と洋風かぶれで特に中世のヨーロッパの物がお気に入りだった。祖母の部屋はモダンな洋式の部屋で、バロック調の家具や小物が所狭しと配置されていた。重厚なベロアのカーテンや、猫足のテーブルの上には陶器のティーポット。足が沈み込みそうな絨毯。そんな部屋の片隅に畳三畳ほどの薄い紫色のシルクのカーテンに囲まれた空間があり、その中に僕は入れられた。そこはまるで異空間で、異世界への前室のような印象を僕に与えた。幼い頃からその空間には近寄ってはいけない畏れを感じていた。

「そこにお座りなさい」

 用意されていた座布団の上に僕は座った。無地の濃い紫色の薄っぺらな座布団。贅沢な部屋と相対する座布団は、日本の茶室のような質素さを感じさせた。恐る恐る正座をした僕に祖母は自分の左手を僕の額に当て、その手を滑らせるように目まで下げ僕の目を閉じさせた。

「心の箱を開けるには、鍵が必要です。その鍵は、心の奥底にしまってある。鍵は言葉、その人に心を揺さぶる言葉・・・」

 僕が目を開けたのは祖母の部屋ではなく、自分の部屋であった。どうやら眠ってしまったのだ。いや、眠らされたのかもしれない。それから、僕は人の心の言葉を聞くことはなくなった。祖父の死が近づくまで。

 

 良家の子息・子女が通う桃李学園に幼稚舎から席を置く僕は、受験とは無縁のままエレベーター式に大学まで進学した。エレベーター式と言っても、ある程度のレベルに達していないと大学には進学出来ないし、マナーに厳しい校風であったため、遊びほうけていた訳ではない。大学では心理学を専攻し、卒後はフリーの心理カウンセラーを生業にした。カウンセリングをする時に心の箱を開けるかって?そんな無粋な事はしませんよ。人の心は、そんなに簡単に覗くものではないからだ。その僕が、ある事件に関わった時、心の箱の扉を開ける事になった。あれは今から5年前、僕が36歳の時だった。小学校からの友人で弁護士の沢村達也から、彼の案件の相談を受けのが始まりだった。