読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

稲垣吾郎ドラマ  アザーセンス 霊感心理カウンセラー 六条伍銅④

 自宅の1室を僕のカウンセリング室として使っているのだが、その部屋に沢村を通した。夜の8時を回っていた。今日は朝から僕が講師を務めている桃李学園大学の授業の資料作りで、ずっとこの部屋にほぼこもっていた。 

「忙しいのに悪いな」

 コーヒーをすすると、僕の顔を見ながら沢村が言った。

「いや、ちょっと興味をそそられたから。で?事件のあらましは新聞で読んだけど、達也の気になる事って?」

「まあ彼女、中野カナが殺したのは間違いないんだが、動機がしっくり来ない感じがするんだ。無気力と言うか、それと半同棲の高校生のスマホが見つからないのも気になる」

スマホ・・・?とりあえず順に説明してくれ。女の成育歴や仕事もからめてさ」

 僕の問いに沢村は弁護士らしく、実に分かりやすく時系列に沿って、このまとまりのない疑問とは別に、中野カナについて説明してくれた。

 

 中野カナは千葉県で母明子が高校3年生の時、同級生の男子生徒との間に生まれた。父親である男子生徒は入籍を拒否。その男子生徒の親が、明子に息子はそそのかされたのだとして結婚はおろか、勝手に明子が産んだのだとして、子供の認知も拒否したのだった。実際明子の素行はかなり悪く、何人もの男と関係があった。百万円の手切れ金を手に、明子はカナを連れて東京に出てきた。夜の仕事や売春まがいの仕事をしながら、男をとっかえひっかえして生きて来た。父親はもちろん母親からの愛情も不十分に育ったカナだったが、意外にも学校の成績は良く、生活態度も悪くはなかった。しかし高校進学はせずに中学を卒業すると、コンビニやパン屋のバイトなどをしてお金を蓄えだした。早く母とその男たちが住むアパートから出て行くためだった。そのバイトでためたわずかな金も母明子に使われる事もあった。17歳でカナは一人暮らしを始めた。真面目に働くカナに感心したパン屋の店主が、持っていたアパートの1室を敷金なしで貸してくれたのだった。仕事は楽しかった。残ったパンを貰える事もカナには助かった。節約してお金を貯めて、大検を受けて大学に行くのを目標にした。自分は母のようにはなりたくない、そう思っていた。20歳の頃よくパンを買いに来る大学生と付き合うようになった。大学生の諸田真一郎と真剣に付き合って1年が過ぎた頃、カナは真一郎の子供を身ごもった。真一郎は大学4年生で、就職はすでに大手地方銀行に決まっていた。当然真一郎の両親は結婚も産む事も反対した。中絶を迫まられたが、カナはどうしても受け入れられず、未婚のまま産む事を決心した。産まれた女の子に真一郎と自分の名前の一字づつを合わせて『真奈』と名付けた。シングルマザーとなったカナは、自分が受けることのなかった愛情を娘の真奈に注いだ。真奈を保育所に預けてパン屋で働き、休みの日にはずっと真奈と過ごした。虐待なんて全く考えられなかった。保育所の先生方もパン屋の店主夫婦も同じ意見だった。真奈が産まれてから、カナは誰とも付き合うことはなかった。真奈のためだけに働き、時間を費やした。それがほんの3か月程前から、17歳の男子高校生と半同棲の生活になり、今回の事件が起きたのだ。どんなに子供のためと言ってもやっぱり女なんだ、子供が邪魔になって殺したんだとマスコミはこぞって報道したのだった。