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稲垣吾郎ドラマ アザーセンス 霊感心理カウンセラー 六条伍銅⑤

「事件が起きた4階建ての団地って?」

「ああ。現場の団地は市営住宅だが、低所得者や片親世帯などが入所している団地で、中野カナはその団地に先月申し込んでいたんだ。若い男と住むつもりだったんだろうが・・・。何せ、今のアパートは勤め先のパン屋の主人の持ってるアパートだ。高校生の若い男を連れ込んで、店主夫妻からそれとなく注意されていたのが、疎ましくなったんだろうけど」

 達也の話を僕は、立てた左人差し指を額に当てながら聞いていた。人差し指を額に当てるのは僕の癖らしい。

「だいたい、カナと高校生はどうやって知り合ったんだ?」

「はっきりしないんだが、どうも吉井貫が、パンを万引きしたのが切っ掛けらしいんだが。そのことで、カナが貫を問い詰めて、話を聞くうちに親しくなったと」

「その、吉井貫の家庭環境は?何か問題でも?」

「まあ、一般的な家庭だ。父親はサラリーマンで母親は保育士でパート。2歳下の妹がいる。貫の高校は市立Y高校でレベルは中の下。これまで学校で問題行動はない。時折高校へ遅刻する程度だった。ここ3か月はカナのアパートに週3回くらい泊まっている。親も何となく年上の女と付き合ってるんじゃないかとは思っていたようだが、今の時代携帯持ってるし、家に帰って来なくても学校には行ってるしで、あまり深く考えていなかったようだ。今回の事件も、女が勝手にやった事だとしている。まあ、実際事故が起きた時貫は学校に居たからね」

「で、スマホが無いんだっけ?」

「そうなんだ。吉井貫にも任意で警察が事情を聴いた時、すでにスマホがなくなっていたんだ。本人もどこで無くしたか覚えていないらしいんだが、学校の昼休みにカバンからスマホを出そうとしたら無くて、カナのアパートに置き忘れたんだろうと思っていたが、アパートのにも無かったという訳なんだ」

「そんなの携帯会社で位置情報を調べれば?」

「もちろんしたさ。でも位置情報はつかめないんだ。電源が切れているか、充電切れか、壊されているか・・・」

達也はそう言うと、首を左右に小さく振った。

「誰が?カナは?まあ、もちろん知らないと言ってるんだろうけど」

「その通り」

「ところで達也、僕はいつ中野カナに会える?」

 僕の質問にはっと我に返ったように達也が顔を上げた。

「じゃあ、力になってくれるんだな伍銅!」

 僕がうなずくのを見て達也が言った。

「早いほうが良い。実は明日の午後会う予定になっているんだ」

「分かった。お供するよ」

 

 達也が帰った後で、僕は目をつむり一人瞑想していた。一体中野カナはどういう気持ちで娘を突き落としたんだろうか。4階からわが子を突き落とす心境とは、どう言ったものか?殺したかったのか?自分も死のうとしたのか?男と再出発したかったのか?何もかも上手くいかない人生に嫌気が刺したのかも知れない。産まれた時から望まれていない人生。母性の欠如。将来への不安。社会への絶望感。カナの中にはどんな闇が広がっているのだろうか。まずは会ってみるか・・・。カナの心の箱の鍵を見つけられれば良いのだが・・・。

 

 翌日。達也とともに拘置所へ中野カナの面会に行った。

 現れたカナは、グレーのスウェットを着て、セミロングの黒髪は後ろに結ばれていた。化粧っ気のない顔だが顔立ちがはっきりしていて美人なのが分かる。事件のあらましとは全く印象の違う、知的な感じのする美人であることに僕は驚いた。カナも見覚えの無い僕を見て、戸惑った表情を一瞬見せたが、軽く会釈をしてうつむき加減に椅子に腰を下ろした。

「こちら、私の友人で心理カウンセラーの六条さんだ」

 達也が僕を紹介した。

「はい」

 カナの声は小さいがしっかりしていた。抑揚を抑えているようだった。僕は心の声や、その人に起こった出来事を映像の様に感じることが出来る能力のほかに、薄っすらとした霊感も持っている。カナの背後にはどんよりとした、しかし何かを訴えたいとする気配が感じ取れた。僕は直感的にそれは殺された娘の真奈であると確信した。真奈の訴えたい事、それが何か・・。僕は口を開いた。

「カナさん。こんにちは。僕は、真奈さんの魂を救いたい。ねえ、カナさん、吉井貫さんのスマホ、どこにやりました?」

 突然の僕の言葉にカナは驚きの表情をした。

「何の事です?」

「僕は、彼のスマホに秘密が隠されてると思っています。違いますか?あなたが真奈さんを殺すには誰にも理解しがたいような理由が潜んでいるはずです」

 伍銅の声は、澄んだ湖のような静かな響きを持っている。どこか真っすぐ染み渡るような声で、いきなり確信を突いた。伍銅の発言に達也も一瞬驚いたが、伍銅を良く知っている彼は、何もアクションを起こさなかった。動揺を鎮めるようにカナはうつむいたまま、握った両手を見つめてしばし沈黙した。そしてゆっくり口を開いた。

「六条さんですよね。私が娘を殺しました。吉井君は関係ありません。娘が、邪魔になったんです。吉井君と二人っきりになりたいとかではなく、私が子供を育てることが嫌になったんです。とにかく一人に、自由になりたかった。人生リセット出来ると思ったんです。ただ、それだけです。・・・あと、スマホ?私は知りません」

 カナはうつむいたまま、左手で右親指のさかむけをいじりながら答えた。