ゴロチマニア 

日比日向多が勝手に稲垣吾郎さんを語ってます

稲垣吾郎ドラマ アザーセンス 霊感心理カウンセラー 六条伍銅⑥

 カナの心の箱。伍銅はその箱をまだうすぼんやりとしか確認できないでいた。心の鍵を見つけるどころか、その箱の形さえも見えないでいた。

「吉井さんとはどうして知り合ったんです?」

「・・・忘れました」

「彼がパンを万引きしたと聞きました」

「ふっ」

 ちょっと漏れるような息を吐き、カナの右の口角が少しだけ上がった。そして言葉を続けた。

「ご存知でしたら、聞かなくても良いじゃないですか」

「いろんな人に何度も同じ事を聞かれるのは、もう君も分かってるでしょう?」

 これまで黙っていた達也が言った。

「そうですね・・・、弁護士さん。私の弁護なんて適当にして下さい。貫とは、彼が数回店のパンを万引きしていたのに私が気づいて、ある日店の中を覗いていた彼を問い詰めたんです。最初は『知らない』とか、『金払えば良いんだろう』とか言って私の手を振りほどいて走って逃げてしまったんです。でもその日の夜、店が終わって帰ろうとしたら店の外に彼がいて、万引きの事、認めて謝ってくれたんです。そこで話を色々聞くうちに、だんだん気持ちが近づいて。不思議と年の差を感じなくって・・・」

「彼は何か悩みでも?」

 伍銅が静かに聞いた。その伍銅の言葉に少女のような笑みを浮かべながらカナは話を続けた。

「まあ、よくある思春期の悩みです。妹の方が成績が良くって比べられるとか、母親が見栄っ張りで、子供をアクセサリーのように扱って、自分の気に入りの息子であることを求められるって。ストレスで彼、学校で他の子をネチネチ精神的にいじめてたみたい。貫のせいで学校転校したり、不登校になった子もいたみたい」

「かわいそうに思ったの?」

「どうかなぁ。両親が揃ってて、普通の中流家庭でも心が寂しいってあるんだって思っちゃったのかな。こんな事話したの初めてです」

 不思議と柔らかな空気が流れていた。カナの心の箱が少し形を表して来ているように伍銅は感じていた。

「カナさんのお母さんって、どんな人だったの?」

「母さん?産んでくれただけ、最低の母親」

 穏やかだったカナが吐き捨てるように言った。

「随分お母さんの事であなたはご苦労したみたいですね」

 伍銅の言葉にカナは小さく頷いた。

「男をとっかえひっかえ、話したくない。母の事は・・・」

 中野カナが吉井貫に感じた母性。わが子真奈への母性。母への憎悪。事件はなぜ起きた?スマホはなぜ消えた? スマホの…なんなんだ。伍銅は案じていた。ぼんやりした箱を探り当てるように言葉を口にした。

スマホ、メール、ライン、写真、動画」

 伍銅がスマホに関するワードを言葉にしていた時、カナの顔が青ざめた。その時、伍銅もカナの心の箱を捉えた。薄暗い中で光が灯ったようにカナの心の箱が見えた。手が届くところに箱がある。あともう少しで鍵となるワードが見つかる。多分一つは写真、もう一つ言葉があるはずだ・・・。伍銅がさらに言葉を発しようとした時、カナが叫んだ。

「帰って」

「何を隠しているんです?スマホの中の写真。彼が、吉井貫さんが撮った写真に」

 伍銅の言葉をカナが遮った。

「もう帰って下さい。何も話す事はありません」

「・・・すいません中野さん。あなたを追い詰めるつもりではないんです。僕は、あなたが自分でも説明できない苦しみを、死んだ真奈ちゃんの魂が納得できるようにしたいんです。あなたは自分でも分かっている部分と、抑圧して封じ込めた自我の中でもがいている。いや、もうもがくことさえ諦めている」

「何が分かるの?私の?私は望んでなんかいません。私が刑を受けて、この事件と私の存在が世間から忘れ去られる事、それが私の願いです」

「あなたは、何を押し込めているんです?」

 カナに向けられた言葉のはずだが、伍銅は自分に問いかけた。目をつむり、今見えているカナの心の箱を意識下で両手に持ち集中した。

「カナさん、あなたは何を恐れているんです?自分は母親とは違う。あの女とは違う。娘に愛情を注いでいる。そんなあなたが恋をした。高校生に、年の離れた若い男。後悔したんですか?」

 伍銅の言葉にカナが両手で耳を塞いだ。

「いい加減にして!」

「カナさん!母と同じように恋をした自分に腹が立ったんですか?あの女と同じだと!」

「やめて!!」

 カナが泣き崩れた。その瞬間、心の箱の扉が開いた。鍵はスマホの写真とあの女と同じと言う言葉だった。心の箱が開かれた時、伍銅はその人の出来事を映像で確認することが出来る。そしてそれは余りに悲しい出来事だった。