読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ゴロチマニア 

日比日向多が勝手に稲垣吾郎さんを語ってます

稲垣吾郎ドラマ アザーセンス 霊感心理カウンセラー 六条伍銅⑨

          初公判

(*実際の裁判状況とは異なります)

 初公判の日を迎えた。事件は世間の注目を浴びて居る事もあり、マスコミも多く傍聴席にいた。検察側が淡々と事件のあらましを説明した。検察官は40代前半の女性だった。

「被告人中野カナは、2012年10月17日水曜日午前10時25分頃、東京都S市あけぼの市営住宅の4階、外階段の踊り場から長女中野真奈を転落させ殺害した。この日は被告人の仕事が休みであり、長女も保育所を熱があると言って休ませ、二人であけぼの市営住宅へ行った。この市営住宅は、2か月前に被告人が入居希望を出しております。市営住宅は4階建てであり、外階段を使って二人は4階まで上がった。4階の踊り場で、階段の手すりに長女を座らせ背中を押して転落させた。長女は即死状態で、救急車で救急搬送された先の病院で死亡が確認された。殺害の動機は、被告人には訳半年ほど前から17歳の高校生男子生徒と交際しており、半同棲状態であった。その男子生徒との交際に、長女が邪魔になり殺害した」

この日、グレーのスウェット上下を着たカナはうつむいて静かに話を聞いている。

「あなたが娘の真奈さんを突き落として殺したのですね?」

 カナははっきりとした声で答えた。

「はい。」

「あなたが真奈さんを手すりに座らせたんですか?」

「・・はい、そうだと思います。」

「自分で抱きかかて、転落させる目的で座らせたんですか?」

「いえ、真奈が空を飛んでるみたいだねって、言って。そばにあった三輪車のサドルに立ち上がって、手すりを鉄棒の様によじ登るようにしながら、私に手伝って欲しいと言ったので、座らせました」

「最初から殺すつもりで?」

「いいえ。でももう死んでしまったので」

 カナは涙も見せず、空虚に言葉を発していた。

「あの日、なぜあの場所に行ったのですか?」

「仕事が休みだったので、もしかしたら住めるようになるかもしれない団地を見に行こうと、真奈に言って出かけました」

保育所には熱が出たと言ったそうですね?」

 検事の須田は淡々と質問をしていた。

「そのほうが休みやすいと思ったので、深い意味はないです」

「いつ殺そうと思ったのですか?」

「殺そうと思ったかどうかは、正直分からないです。ただ・・・、真奈が手すりに座りたいと言うので、危ないと思いましたが、せがまれた通りに座らせました。その背中がふと動いたように思ったので捕まえようと手を伸ばした時、真奈が落ちてしまって、現実なのか分からなくなってしまって、その場に座り込んでしまいました」

「では、不慮の事故だということですか?あなたは調書では、邪魔になった娘を転落させて殺害したと供述していますが」

 検事は語尾に少し強さを秘めた声で聞いた。裁判当日に自供を翻す被告人はよく居るので、さほど驚きはしなかった。しかし、その質問に対するカナの答えは意外なものだった。

「事故か殺人か、私にはどっちでも、どうでも良いんです。真奈が死んだ原因は私にあるという事です。ですから、殺したのか?と聞かれれば、はいと答えます。背中を押したのかどうか、もしかしたら押したのかもしれません。私は、真奈の死に責任があり、その責任を負うつもりです。どんな罪でも構いません。いっそ死刑にしてくれて構いません。ですから、一日も早く結審して、終わることを望みます」

 傍聴席がざわついた。カナは表情を変えない。

「ではなぜ責任があるのでしょう?若い男との生活に、娘が邪魔になった?」

「・・・・いえ、はい」

 少しカナが躊躇した。カナに須田が再度確認した。

「違うんですか?」

「そうです」

 伍銅は、この時カナの動揺を感じ取った。

「それでは、あなたは心のどこかで、長女の事を邪魔に感じていた。二人であけぼの団地を見に行った時、若い男と二人の生活を思い描いたのではありませんか?その時、真奈さんが手すりによじ登っているのを見て、うまく誘導し手すりに座らせ発作的に背中を押して転落させたのではないですか?」

 須田の言葉に達也が手を挙げた。

「裁判長。憶測の意見にすぎません」

「どうですか?原告代理人」

 須田はゆっくりと裁判長を向いて答えた。

「殺意があったかは重要な事柄です。我々原告側は、被告人には殺意があったと認識しています。被告人はこれまでシングルマザーとして長女を育ててきました。長女を出産後、男性との交際はなく、つつましくも懸命な子育てをしていたと周囲の評判でした。その被告人が9歳も年下の高校生と恋に落ちた。無防備な恋は被告人から母の部分を失わせ、女の部分を表面化させてしまった。まだ自分は若い、やり直せる、そうした思いが徐々に長女を邪魔な存在にしてしまった。これまで被告人親子に陰ひなたで支えてくれていたパン屋の店主夫妻が、高校生との交際を危惧して被告人に注意したようですが、全く聞く耳を持たない状況だったと答えています。被告人は自分と高校生との交際を周囲に反対されていると思い、そのことが更に恋心を可燃させた。長女さえいなければ、その思いが今回、現場となった市営住宅の4階の踊り場で転落させる機会が訪れた。そこで発作的に殺意を持って転落させたと考えます」

 須田検事は、話し終えると自席に戻った。わずかな沈黙の後、裁判官が言った。

「弁護人からは何かありますか?」

「はい。質問をいくつか」

 達也は立ち上がるとカナに近寄り話し始めた。

「あなたが真奈さんを殺したんですね?」

「はい」

「あなたが、真奈さんの背中をその手で押して、4階から突き落として殺したんですね?地面に叩きつけられると骨折や、内臓破裂、頭が割れることもある。それを覚悟であなたが真奈さんを突き落としたんですね?」

 強い口調で話す達也の前でこの日初めてカナが涙を見せた。両手で持っていたハンカチを握り締め、肩を震わせてこらえるように涙をこぼした。達也はわざと転落時の説明を一般的な言い回しで話したのだ。少しの沈黙の後、カナは答えた。

「はい。私が殺しました」

 その言葉は、カナの決心を感じさせた。そして傍聴席がざわつき、記者達はペンを走らせた。

 達也は軽く首を横に数回振り言った。

「裁判長、ここで参考人の出廷を願います」

 そうして僕は、弁護側の参考人として出廷した。裁判で一体僕に何が出来るのか?僕にとっても挑戦だった。大袈裟なようだが、六条家の次期家督者の意義を問われるようなものだ。