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ゴロチマニア 

日比ようが勝手に稲垣吾郎さんを語ってます

稲垣吾郎ドラマ アザーセンス 霊感心理カウンセラー 六条伍銅⑩

「お名前を」

 達也が僕に言った。

「六条伍銅です」

「お仕事は?」

「心理カウンセラーです。大学の非常勤講師も務めています」

「裁判長、今回心理カウンセラーである六条氏が、事件の裏に潜む被告人の心理面を分析してくれます。後は、宜しくお願いします」

 達也はそう言うと、僕に軽い目配せをした。久しく感じる事がなかった緊張感が僕を包んだ。僕は中野カナを見て話し始めた。

「中野さん、あなたは自分のせいで真奈さんが死んだ、だから殺意があろうがなかろうが関係ないと思っていますね。ただ、真奈さんのために罪を償うだけだと」

 カナは一瞬僕の方を見たが、すぐにうつむいてしまった。僕は話を続けた。

「これから僕が話す事は、カナさんにとって苦しいものになるかもしれません。ですが、あなたと真奈さんの魂を救うためには、必要であることをご理解下さい。あなたは母明子さんが高校3年生の時長女として産まれた。父親は明子さんと同級生でしたが、結婚はせず認知もされなかった。明子さんはあなたを女手一つで育てたんですが、あなたと違い明子さんは母性に欠けている女性でした。明子さんは多数の男性と交際・同棲し、あなたはその都度辛い思いをしてきました。あなたが小学4年生の時、明子さんと当時同棲していた男性にレイプされました。そのことを知った明子さんは、母として娘であるあなたを守るどころか、あなたに嫉妬して罵った。あなたは激しい絶望と憎悪を抱いた。自分にとって父親のような年齢の男性に対する不信感と、母親に対する拒否感から、絶対に自分は母と同じにはならないと誓った。そうですね?」

「だから何なんですか?私の生い立ちを今更説明して・・・。思い出したくもない事です」

 カナは少し苛立ったように答えた。

「あなたには目標があった。あなたは学校の成績が良かったが、劣悪な環境のため高校には進学せずすぐに家を飛び出し、中学生の時からバイトしていた現在のパン屋で働いて自活した。お金を貯めて、大検を受けて大学進学することを考えていた。あなたは大学進学し生計の立てられる職に就き、できれば普通の結婚をし、平凡な幸せを手に入れたかった。そんな折、あなたが20歳の時知り合った当時大学生と恋に落ち、真奈さんを身ごもった。相手の男性の両親は結婚に反対し中絶を迫った。悩んだ末、あなたはシングルマザーとして生きる道を選んだ。自分が拒否する母と同じ道、でも自分は決して母のようにはならない、娘を傷つけたりしない、そう固く心に誓った。大学進学よりも娘を育てる事、真奈さんのためだけに生きる事をあなたは選んだ。そしてその通りにあなたはしていた。それは周囲の方々も証言してくれるでしょう。ただ、あなたは吉井貫と出会ってしまった。9歳も年下の高校生とふとした切っ掛けで接点を持ち、彼に母性と恋心を同時に持ってしまった。過去の経緯からあなたは、父親のような年齢の男性に嫌悪感を抱いています。その点吉井さんは自分よりずっと年下で、不思議と安心できた。真奈さんのためだけに生きようと決心していたのに、吉井さんに心を奪われていく事にあなたは酷く葛藤したことでしょう」

「やめて、関係ないわ。彼の事は関係ない!」

 カナは立ち上がって、しかし顔はうつむいたまま強い口調で言った。

参考人、今の話の真意は何ですか?」

 裁判長が伍銅に尋ねた。

「ここはもう少しご辛抱して聞いて下さい。なぜこんな事件が起こってしまったか、彼女の深層心理を理解することが、事件の真相に繋がります」

 僕は、真っすぐに裁判長を見据えて言った。

「分かりました。どうぞ続けて下さい」

「ありがとう存じます」

 僕は再びカナに向かって話し始めた。

「あなたは、自分でも分かっていた。この恋愛が続かないことを。だから市営住宅に入居希望を出した。吉井さんと別れて真奈さんと二人で暮らそうと。あけぼの市営住宅は、片親世帯優先住宅ですからね。入居が決まれば吉井さんに行き先を教えずに別れるつもりだったのでしょう。そんな時、偶然あなたは大変な物を見てしまった。吉井さんのスマホに・・」

「やめて!やめてって言ってるでしょう!」

 僕の言葉をかき消すようにカナが叫んだ。周囲は騒然とした。

「被告人は冷静に」

 興奮してカナは裁判長に詰め寄って言った。

「この人は、関係ない事を言ってるんです。私は罪を認めてるんですよ!これ以上裁判なんて、する必要ない!早く私を死刑にして下さい」

 達也がカナを鎮めるように元の席に誘導するが、カナは興奮して動こうとしなかった。これまで自分の感情を抑えていたカナの高揚振りに、場内がざわついていた。係員が2名カナの両腕をつかみ静かに席に戻した。

 2~3分経過しただろうか。裁判長が僕に尋ねた。

「続けますか?」

 カナは席に座って首を横に振っている。

「はい。カナさん、辛い事ですが逃げないで下さい」

 僕はカナに向かって言った。

「吉井さんのスマホに真奈さんのわいせつな画像が撮られているのを見つけてしまった。彼は真奈さんのわいせつ画像を児童ポルノサイトなどで売って、小銭を稼いでいた。それを知ったあなたは・・」

「やめてって言ってるのに・・・」

 座ったままカナは震える声で僕に訴えた。僕の目に映ったカナは、怯えと憎しみの入り混じった表情であったが、どこかすでに諦めている様に見えた。

「裁判長、そんな事実は確認しておりません。吉井貫氏のスマホは紛失したままで、見つかってはいませんでしたが・・・」

 須田検事が声を上げた。それに対して、達也が答えた。

「この件に関しましては、吉井氏がサイトに投稿した画像、また購入者から画像提供があり、弁護側は発信元が吉井氏のスマホのアカウントと一致している事は確認できています。この後、証拠として書面で提出する予定です」

 達也のフォローの後、僕は話を続けた。

「カナさん、あなたはその事を知り、愕然とした。結局、自分も母と同じく自分が関係を持った男に娘を傷つけられてしまった。いや、傷つけたのは自分自身だと。自分の娘に産まれなければ、こんな思いをさせずに済んだのに・・・。かつて母明子さんの子として産まれた事を呪ったあなたは、全く明子さんと同じ種類の人間だと悟った。自分が母親になる資格が無い人間だと、そう思った。あの事件の起きた日、あなたは仕事が休みだった事もあり、真奈さんと二人で出かけた。朝方、吉井さんのスマホをデータ修復が出来ないように叩き割って川に捨てた。それは真奈さんの秘密を守るためですね」

 カナは黙って聞いている。

「吉井さんが高校へ行った後、あなたと真奈さんは家を出た。公園で真奈さんと一緒に遊んだ後、あけぼの市営住宅に向かった。この時は真奈さんと二人でやり直す気持ちだったはずです。真奈さんと4階まで外階段を昇った。その踊り場には住人の三輪車が置いてあった。真奈さんに三輪車を与えてあげられていない自分にあなたは腹が立った。あなたはこの先が急に不安になった。今のままで真奈さんをきちんと育てていけるのか?真奈さんはまだ4歳です。自分が吉井さんにされた行為がどの程度理解できているか分からないが、物凄く心に深い傷跡を残してしまったのでは?自分が吉井貫とさえ付き合わなければ、こんな事にならなかったのに、とぼんやり遠くを眺めながらあなたが考えていると、その間に真奈さんは三輪車を台替わりにして、手すりによじ登っていた。気づいたあなたは、危ないと思い手を伸ばした時、真奈さんは誤って転落してしまった」

「わー!真奈、ごめんね、ごめんね」

 カナが泣き叫んだ。

「その時、真奈さんはあなたに何か言ったはずですが?」

「真奈は私に・・・、『ママ、真奈は大丈夫だよ。見て、お空が飛べるよ』って・・」

 カナは泣きじゃくっている。まだ4歳の子供が、でも子供なりに母親を慮って言ったのだ。