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ゴロチマニア 

日比ようが勝手に稲垣吾郎さんを語ってます

稲垣吾郎ドラマ 六条伍銅シリーズ 王子様な生活⑤

 れいの前に付き合った女性は、みんな同じような言葉を口にした。

「いつになったら、本当の顔を見せてくれるの?伍銅さんがいつもそのままだから、こっちも気を張ってなくちゃいけなくて、疲れちゃう・・・」

 女優やモデルは見られていることを意識しているが、素の自分の戻ると違うようだ。メディア用とプライベート用の顔を持っている。それが、僕がいつまでもイメージ通りなのでみんなしびれを切らして去っていく。れいは初めて自分から女優の皮をはぎ取って、僕に前にその素顔をさらした。一体、どうすればいいんだ?れいのことはもちろん好きだ。このままいつも通りにすると、きっとれいは自分が嫌われたと思うだろう。偽りの素顔を演じるべきか?

 悩んでいる僕にれいはスエットの上下を差し出した。

「着替えて、この方がくつろげるでしょう」

「いや、あれ・・、ありがとう」

 黒のスエットに着替えてみる。正直この方が落ち着かない。自宅では、お風呂上りならバスローブだし、パジャマならシルクの肌触りが好きだ。一気に中年オヤジになった気がする。年齢は十分中年だが、僕の美的センスがむずむずする。

「私、実はこんなコタツや座布団が落ち着く普通な女の子なんです。都会的なイメージで売ってるから、いつも流行に敏感なふりしてるけど、本当はジャージにパーカーでも全く気にしないし、お化粧も好きじゃないの。伍銅さん、こんな私駄目ですか?」

 子供っぽい口調でれいが聞いてきた。う~ん、女の子のジャージにパーカーって、中学生なら許すけど、って言うか、そんな格好の女の子に自分が合わせる格好ってこのスエットの上下か?冗談じゃない。こんな格好で外なんて歩けないよ。でも今それを言える状況じゃあないよな。

「自分の家の時は良いんじゃない?自分の家なんだからさ。ただ外に出かけるときはちゃんとしようね」

「はあ~い。わかりました」

 おどけたようにれいが言った。

 この日を境に、れいの家で会う時は、僕は渡されるままに黒のスエット上下を着るようになった。夏はハーフパンツにTシャツが渡された。全く落ち着かないが、れいの家に行くのは月に1・2回程度なので我慢できた。外での食事やゴルフには以前の様におしゃれな格好で出かけていたし、僕の家で会う時は、自分が落ち着く音楽やアロマ、シルクのパジャマで過ごした。れいは物凄い甘えん坊で、二人の時は『伍銅ちゃん』と呼ぶようになった。付き合って4年程経った時、写真週刊誌にれいが僕にマンションに出入りするところを撮られた。お互いの事務所は『信頼できる友人として良いお付き合いをしているようです』とコメントし、僕もれいも明らかな否定はしないでいた。そのため、交際は事実で結婚が近いと騒がれていた。そう、れいは30歳になることで、明らかに結婚を意識していた。

「私、女として子供を産みたいし、となると30歳って一つの区切りなの。伍銅ちゃんは結婚とか子供ってどう考えてるの?」

 とうとうれいが結婚について切り出してきた。れいの事は好きだ。かわいいし思いやりもある。ただ・・・、れいが料理を盛り付けると、いつもメインは同じ白い皿に盛る。肉じゃがでもカレーでも同じで、サラダも同じだ。100円ショップの皿らしい。僕は器にもこだわるタイプだ。結婚して子供が出来たら、もっと雑な生活になるだろう。子供はかわいいと思うが、僕が子供のおむつを替えたり、子供の使う様なプラスチックの皿にワンディッシュの様に食事を盛り付けられるのは辛い。僕は、重たい口を開いた。

「君の思う様な結婚観ではないと思うよ」

「どういう意味?」

「僕は、みんながくつろげると思う様な事、例えば短パンとTシャツでソファーに横になり、ポテチを食べながらTVを見たり、トイレで新聞読んだり、靴下を洗濯機に投げ入れるとかお風呂上りにバスタオル巻いて、缶ビールをくいっと飲むなんて事が、全くくつろげないんだ」

「えっ!」

「ゆったりしたクラッシック音楽に好みのアロマオイルを部屋で楽しみたいし、飲み物はきちんとグラスで飲みたい。口当たりが気になるのでグラスは薄いほうが好きだ。お風呂上りはバスローブの方が落ち着くし、食器にもこだわる。背筋が伸びているほうが楽だし、体育座りは疲れる。子供は・・・」

「子供は?」

「好きだよ。でも、子供の事で生活が乱れるのは、正直望んでないかもしれない」

 れいは首を左右に振った。そして声を荒げた。

「もっと上手な振り方ってあると思う。私と結婚する気はないって事ね?そんなのがくつろげないなら、言えば良かったじゃない。そんなウソついて、最低!」

「君が何で怒るのか分からないよ。だって本当の事なんだからさ。れいが好きだから、れいの家では合わせてたんだ。でも毎日になると僕が耐えられないかもしれない」

「はあ?どうせ私はジャージで缶チューハイ飲むような下品な女です。どうも失礼しました」

 その日、初めてれいと喧嘩した。

 

1週間後れいから電話があった。

『色々考えたら、伍銅ちゃんって、私の家以外はずっと六条伍銅だったなあって気づいたの。私が女優のままでずっと生活すると疲れるように、伍銅ちゃんは逆にだらしないのが疲れるんだよね。私、今すぐ結婚しなくても良いの。やっぱり伍銅ちゃんが好きだから。私も頑張る』

『悪いね』

 その後も交際は続いた。れいは僕を何とか一般的な中年男にしようと頑張ったが無理だと気付いたようで付き合って6年で別れる事になった。後にも先にも、6年も交際したのはれいだけだった。どんなに好きでも価値観を埋めるのは難しいと思った