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ゴロチマニア 

日比ようが勝手に稲垣吾郎さんを語ってます

稲垣吾郎ドラマ 六条伍銅シリーズ 王子様な生活⑦

        朝日サキの場合

 エッセイストのサキとは、雑誌の取材で知り合った。女優やモデルの様な分かりやすい美人ではないが、知的で佇まいに芯の強さを秘めた美しさがあった。文学に長けているためか、機知に富んでおり言葉の選択がとてもおしゃれで魅力的だった。取材の後で僕がサキを誘おうと思っていたら、サキの方から声をかけて来た。

「六条さん、この後一緒に飲みに行きませんか?」

 唐突な誘いに驚いたが、断る理由はなかった。

「もちろんです。どういう場所がお好みですか?」

「今夜は、まずは六条さんの好みのお店に連れて行って欲しいです。その次は、私のチョイスで。これで2回はご一緒出来るし」

 

 僕の古い友人がやっているバーへ行った。オーナーでバーテンダーの高木は10年来の知り合いだ。店内はあまり広くないが、落ち着いた雰囲気で、高木の出してくれる一皿は、チーズとフルーツの盛り合わせで、お酒の邪魔にならない素晴らしい脇役だ。

「こちらの女性は?」

 高木がサキを見て聞いてきた。もちろん、高木は気の利く男だ。朝日サキだと気付いて聞いてきたのは分かった。

「朝日サキさんだよ。今日は仕事でご一緒してね、その延長戦さ」

「こんばんわ」

 サキは軽く会釈をした。

「やっぱり。うちの妻が朝日さんのコラムが好きなんですよ」

「ありがとう。もしかしてファッション誌の?」

「そうそう。負け犬女の遠吠え?でしたっけ?」

「はい。あのコラムが好きってことは、奥様は・・・、ご主人に不満があるのかも!」

「ええっ、そうなのかな~」

 高木が少し動揺したのが面白かった。

「思い当たることがあるのかな?」

 僕の質問に少し考えた風だったが、すぐに高木は答えた。

「多分、たくさんあるだろうさ」

「マスター、冗談ですよ。あのコラムは女性一般の不満や普段言えないことを、私が代弁してるの。みんな自分が負け犬だって気づいているけど、でもまだ諦めない。私が悪いんじゃない!周りがバカなのよって体で、うまく収まりつける感じです」

「なるほどね。で、どんなお酒がいいですか?」

「結婚も出産も諦めた女が、いい女風で頑張ってる、こんな私を癒してくれる一杯で、ちょっとフルーティで軽めのをお願いします」

「かしこまりました。伍銅ちゃんは?」

ジンベースのを頼みます」

 

 高木の作るカクテルは間違いなくおいしい。

「今日はお疲れさまでした。この出会いがこの先素敵な展開になる予感が、私するの」

「朝日さんの『マンハッタンとニューヨーク、そして東京』僕、読みましたよ」

「ありがとう。あのエッセイがドラマの原案になったおかげで、今の私があるんですよ」

 10年程前に、サキのエッセイが原案となった連続ドラマがヒットした。僕も出演オファーがあったが、ちょうど裏番組の関係で断ったのだ。アメリカで知り合った男女が恋に落ちるが、アメリカでの二人の装いとは違って、東京に戻ってきた二人は、全くおしゃれでも特別でもない普通の二人だった。と言うストーリーで、背伸びしている自分と等身大の自分といったコンセプトが、20代、30代の男女で話題になっていた。

「あのエッセイは、自分の体験ですよね?」

「まあ、エッセイですから・・・。でも全部が本当じゃないわ。全部さらけ出したら、私消されちゃうわ」

「なんで?」

「うふふ、女もこの年まで生きてると色々ありますから」

「失礼だけど、幾つ?」

「ああ~、六条伍銅でも聞くんだ~」

「いや、聞かなくても勿論良い。魅力的な女性はそれで十分だからね。でも、聞けるなら聞くかな」

 聞いたほうがスマートな感じがした。

「39。伍銅さんと同じよ」

 さらりと言った。そしてこう続けた。

「ほら、女って子供が産める年のころは、出産ありきで付き合うでしょう。でも、私そういう事ないので、物凄くプレッシャー無いですよ」

 すでに気持ちは朝日サキに掴まれていた。