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ゴロチマニア 

日比日向多が勝手に稲垣吾郎さんを語ってます

稲垣吾郎ドラマ 六条伍銅シリーズ 王子様な生活⑧

 2週間後、サキから今度は自分の行きつけの店に招待された。ごくごく普通の蕎麦屋だった。庶民の店という感じで、高級感もおしゃれ感もない、一般的な蕎麦屋に案内された。

「ここよ」

 サキは先に暖簾をくぐった。

「こんばんは」

 サキを見ると店のカウンターで新聞を読みながら煙草をふかしていた店主が、くわえ煙草で右手を挙げた。

「おう、みず。男か?」

 店主は、ちらっと僕のほうを見た。僕は軽く会釈をした。

「ったっく。言ってあったでしょう。奥借りるね」

 そう言うとサキはお構いなしに店の奥座敷へ進んだ。僕はサキの後を追った。店にはカウンターに2名の常連らしい客がいた。

「ごめんね~。ここのマスター昔のダチで。こんなお店なかなか行かないでしょう?こういう場所が私のホームなんだよね」

 奥の6畳ほどの個室に二人で入った。

「ここは蕎麦屋さん?」

「そう。まあ、でも居酒屋ね。日本酒はそれなりに揃ってるわ。お料理は、適当にって頼んである。本当に普通の味。良い意味で」

 こういうのも悪くないと思い、僕は酒の品書きを見た。日本酒はそんなに詳しくはない。だが品書きの日本酒も全く一般的な物だった。

「じゃあ、久保田の千寿で」

「了解。熊田!久保田の千寿と私いつもの」

 サキは声をあげた。

「さっき、お店のご主人が『みず』って、言ってたけど?」

「ああ、本名は瑞枝。佐野瑞枝。さえない名前でしょう。あなたは?」

「僕は、変な名前だけど本名なんだ」

「え~、そうなんだ。ねえ、六条伍銅って、実家は確か普通のサラリーマンで、社宅で生活してたって聞いたけど本当?」

「ああ、その通りだよ。団地みたいな社宅だった。父は機械メーカーの技術職だったからね」

 サキは、ちょっと目を見開いて聞いてきた。

「じゃあ、いつからそんな高級志向の貴族みたいな生活してんの?」

「いつから?う~ん、多分芸能界に入って、それなりに名前が売れて、20代中頃かな。なぜ?」

「お待ち。豚の角煮と刺身三種盛り。あと千寿と蕎麦焼酎

 マスターが料理と酒を持ってきた。

「ありがとう。最近景気はどう?」

 料理を受け取りながらサキが聞いた。

「まあ、ぼちぼちだな。こちらは六条伍銅さん?」

「ええ、今日はお世話になります」

「みずの男になるなら、覚悟が必要だよ」

 マスターの言葉にサキは左手を左右に振って言った。

「いい、いい。もうそっち行って」

 マスターはおどけたように首をすくめて去って行った。

「さあ、飲みましょう。あれ、何の話だっけ?」

「いつからこんな生活かって」

「そうそう、結局六条伍銅は、生まれながらの華族の出とか新興成金の息子ではなく、私たちと同じ庶民の出なんでしょ。じゃあ、カッコつけないで庶民らしく行こうよ。ねっ」

 しょっぱなから、サキはいい勢いで飲んだ。料理は可もなく不可もなく、平均点な味で、もちろん悪くない。

「君も僕の素顔を見たいと思ってるんだね?」

「素顔?」

 サキはちょっと驚いた顔をした。

「あはは。素顔と言うか、地よね。地」

 都会的なエッセイストは、かなり庶民派だった。でも、それはそれで楽しさもある。彼女の仕事モードと通常モードのギャップに興味がわいた。

「君の地を、もっと知りたいな?」

「そうね。私、年だから駆け引きが面倒なの。率直に言うわ。私は六条伍銅に興味があるの。結婚とかは考えてないけど、ちょっとお付き合いしたいと思ってるの。どう?」

 あっけらかんとしたストレートな物言いに僕は射貫かれた感じがした。

「喜んで。でも君の期待外れになるかも知れないよ。僕の地を知ると」

「うふふ、あっは。期待するほど子供じゃないわよ。気になった男と付き合う。これで十分楽しめるわ。今日は飲むわよ」

 その言葉通りサキはぐいぐいと飲んだ。焼酎を6杯にワインを1本空けた。ちょっとべらんめえ口調で話すサキに僕も俄然興味をそそられた。

「私、エッセイやコラムが主でしょ?でもって、おしゃれなイメージで売ってるから、まじ大変。本当はハイブランドなんか興味ないのよ。あんなブランドのロゴ入ったカバンのどこが良いの?」

「君も持ってるだろう?」

「ああ、これ?香港で買ったぱちもん。カバンはまだ良いとして、カバンと同じ柄の靴?あれ、必要ですかって?」

「確かに僕もブランドロゴの靴は好きじゃないけど、ハイブランドってやっぱり製品の確かさや品と質の良さ、まさしく品質の良さが魅力かな。素材も良いから肌触りも良く、体になじむ感じで着心地の良さがある」

「はいはい、そうですか。見栄だろうが」

「まあ、見栄もあるさ。でも僕はハイブランドも好きだよ」

 サキは、ちょっと顎を外すように大きな口を開けた。

「か~っつ、おい、熊田。蕎麦持ってきて。〆の蕎麦」

 

 その日、酔っぱらったサキを送り届けて帰った。