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ゴロチマニア 

日比日向多が勝手に稲垣吾郎さんを語ってます

稲垣吾郎ドラマ アザーセンスⅡ 霊感心理カウンセラー 六条伍銅①

           ささいな嘘

 

 初めての事件からほどなくして、六条伍銅は学生時代の後輩で、現在精神科医の國立梨花(くにたち りか)と会っていた。梨花が担当している女性患者のカウンセリングの依頼だった。梨花は同じ大学の一年後輩で、当時伍銅とは恋人同士だった。ところが梨花は大学3年になる時突然伍銅に別れを告げ、医大へ編入したのだった。その後は、時折連絡を取ったり昔のサークル仲間で集まる時に会うことはあったが、二人きりで会うのは別れてからは初めてだった。

 待ち合わせ場所は、梨花の勤める総合病院の医局内応接室だった。5・6年ぶりだろうか。久しぶりに会う梨花は少し髪が伸びて、後ろに結んでいた。薄化粧で耳に小さなアメジストのピアスを付けていて、その装飾の少なさが余計に梨花の美しさを際立てていた。

「ごめんなさいね、こんなところに呼び出して」

 梨花は伍銅に会うと小声で言った。

「君にならいつでも、どこにでも行くよ」

「相変わらずね、さすがは六条伍銅だわ。実は、この前の事件解決の話を聞いて、どうしても伍銅さんに助けてほしくて。それに、個人情報の事もあるのであまり院外では話も出来なくてこんな場所で、でも来てくれてうれしいわ」

「なるほど。で、電話では女性の患者だとか、何か事件と関係しているの?」

 精神鑑定が関係している事件の依頼かと思って伍銅は尋ねた。

「事件…、じゃないかもしれない。でも気になるの。患者の名前は石山真紀。41歳で離婚歴あり。一人息子は去年中学入学してすぐに自殺してるわ。息子は小学6年生の途中から不登校になり、一度母親である彼女が相談に来てるわ。その時の担当医師は私じゃなく、この春転勤になってるんだけど。彼女がここに来たのは、1か月前。職場で無断欠勤が2日続いたので、職場の人がアパートを訪ねたら彼女が倒れていたの。ここの病院に運ばれて、ケアで結局意識も戻って、検査をしてもこれと言った原因疾患が見つからず、極度の緊張による神経性のものじゃあないかとなって、精神科に転科になったの。一般的にはヒステリーと診断になるのかもしれないけど」

「気になる事って?」

「何か隠してるような、違和感って言うか。眠れないとか食欲がないことも、なくはないんだけどね。ヒステリーとは思えないし、鬱でもないと思う。解離性障害でもなくて、だからもう体力は戻ったので、退院しても良いんだけどね。でも、とにかくとても悲しそうだったり、かと思えば不敵な笑みをしている時もあって。だけどもう病院的には退院して欲しいの。で、そこを迫られてはいるの。でも、このまま帰してしまったら、私が後悔しそうなの。で、伍銅さんにお願いしたってわけ。彼女に何があるのか、何もなければそれでいいし。ただ、退院まであと2週間がタイムリミットだわ」

 梨花にしては、整然としない理屈ではない感情での説明だった。そのことが返って伍銅の興味を引いた。

「だけど、一人息子が自殺したら、母親だったらそりゃあちょっとはおかしくなるだろう?梨花がこだわるほどの何があるのだろう?」

「もちろんそうよ。でも息子さんが亡くなってから1年経って、なぜ今?と言うのもあったんだけど。実は最近分かったのだけど、息子さんが不登校になった原因はいじめなんだけど。小学校の時のいじめの主犯格の一人の子の父親が妻に刺されて死んでいたの。それが彼女が病院に運び込まれた3日前の事件だったのよ」

「じゃあ、彼女にその、疑いか何か?」

「いいえ、刺したのは妻だし、原因は夫婦げんかで石山真紀の事は一切触れられてないわ。関係性は警察もないと言ってる。でも気になるの」

 梨花の真剣な顔に伍銅もうなずいた。

「分かったよ。時間もないことだし早速会ってみよう」

 一体、どんな人なんだ。梨花をここまで悩ませる石川真紀という女性は!梨花電子カルテで伍銅に石山真紀のこれまでの経過を説明した。

「入院経過はこんな感じ。この後夕方5時頃面接可能だわ。伍銅さんお願いできる?」

「もちろんさ。それまで30分あるから・・・、コーヒーでも一緒にどう?」

「ありがとう。私におごらせて。病院の1階にカフェがあるから」

 

 最近の大きな病院にはカフェがあるのが一般的になっている。二人でコーヒーを飲んでいると通りがかった40代くらいの患者さんらしき女性が声をかけて来た。精神科の患者さんは歩行が前のめりで、視線が一点を見ていることが多く、関わることが多いとすぐに気づく。伍銅も精神科の患者さんは大抵の場合分かる。

「先生、彼氏できたの?」

「違うわ。この方は大学の先輩で心理カウンセラーの方」

「そうなんだ。先生美人なのにもったいない。それじゃあ」

 そう言い残し去って行く女性を見ながら、ちょっと試すように伍銅が梨花に聞いた。

「彼氏、今は?」

 僕の質問に梨花は一瞬真顔でじっと目を見つめた。その目に僕はドキッとした。

「い・な・い 仕事ばっかり。つまんない女でしょ」

「つまらなくなんてないさ。僕の事振っておいて、それはないだろう?」

「振った?うん、まあそうね。でも・・・、あっともう時間だわ。行きましょう」

 何かを言いかけた梨花。伍銅はなぜ梨花が自分の前からいなくなったのかが理解できなかった。理由ははっきり言わずにいなくなった梨花。別れて15年も経つのに、伍銅の心はまだ気になっていたのだ。梨花の心の箱を開ける勇気もなかった。もちろん、祖母からそんな色恋沙汰に能力を使うなんて、もってのほかだと叱られるだろう。

 とりあえずは、石山真紀に会ってみよう。