カウンセリングのビタミンC

生きると言う格闘技に一休みを。

ちょっと怖い話 その1「いじめの無い学校」

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 ある県内の高校。ちょっと郊外にあるため、ここ最近は生徒数が集まらず、閉校の噂もある。

 1年3組。宮田は、自分で思い当たる理由もなく、同じクラスのほぼ全員の男子から無視されている。特に中心となってる5人グループの山田と小野寺は、聞こえるように宮田の悪口を、時には大声で言う。勿論教師のいない時にだ。

「あ~あ、入学した時は良い奴だと思ってた~」

「あいつバカなのに性格も悪い」

「どうせバカだから、留年するし、そしたら同じクラスにならない」

 など言うほかには、掃除の時宮田の机だけ運ばない、体育祭でのペアを嫌がるなど、宮田は両親に心配かけたくなくて、何も言わずに通っていた。

 この5人グループ以外の男子は、なぜ宮田がそこまで言われるのか分からなかったが、自分が同じ標的になるのが嫌なので、なるべく宮田と距離をとっていた。

 

 この日、インフルエンザで休みの担任に代わって、今まで見たことのない教師が朝のホームルームにやって来た。40代の女性教師だ。

「おはようございます。初めまして坂手と申します。今日は、加納先生に代わってちょっとお話しさせていただきます。今日はこのホームルームと1時間目の授業を受け持ちます」

 坂手と名乗るその女性教師は続けた。

「まず、今この学校が存続の危機にあることを知っていますか?理由は、生徒数の減少です。去年から私立の楓女子高校が男子の受け入れを始めたので、立地的に不利なこの学校は、人気が無いです」

「え~、まじ無くなるの?」

 山田が声を出した。

「そうです。山田君、困りましたね」

 坂手は山田を認識していた。名前を言われた山田はちょっと驚いた。

「実は、この学校に生徒を呼ぶために、これからこの学校は『いじめの無い』学校に変換することになりました」

 宮田君は、心の中でつぶやいた。

「そんなこと出来ないよ」

 宮田君は、担任や副担任に嫌がらせをされることを相談したが、何も変わらなかったからだ。

「宮田君、どう思いますか?」

 急に心を見透かされたように、坂手が宮田に問いかけた。

「えっ、いや、分かりません」

 宮田は自分がいじめの標的であることを、言うのを躊躇した。

「実は、この学校は、AIの学生と共存する日本初のモデル校として再スタートします。そしていじめの無い社会を作る、基盤としての役割も担います。なので、今この中にいじめている人がいるならば、排除します」

 坂手が教室を見回し、小野寺に声をかけた。

「小野寺君、君は宮田君の机をいつも掃除の時運ばないよね。それはなぜ?」

 急に話を振られた小野寺は驚いた。

「いや、そんなことは無いです」

 心の中で小野寺は、宮田がチクったのだと思った。するとすかさず坂手が言った。

「宮田君は何も言っていません」

 そして坂手は続けた。

「町村くん。君はなぜ宮田君と同じ班になった時、絶対宮田君とは口を利かないのはなぜですか?」

「う・・・」

 5人グループの一人である町村は、坂手の言葉に何も言えなかった。

「奥山君はどうですか?」

「・・・それは、みんながそうだから」

「みんながするから、自分もすると・・・」

 坂手はそう言うと、天井を見上げた。

 5人グループの名前が呼ばれる。まだ呼ばれていない井上は、ドキドキしていた。井上は5人グループの中でも、一番立場が弱かった。山田や小野寺と同じサッカー部で、クラスではじかれたら、部活でもはじかれてしまうのが怖かった。

「じゃあ、井上君。君もそう?みんながするから自分も同じように、宮田君を無視してた?」

 やっぱり自分の名前が呼ばれたと、井上は思った。

「・・・はい」

 か細い声で答えた。

「それじゃ、井上君は、みんなが死んだら君も死ぬのかな?」

「いや、それは無いです」

「いやいや、君は自分の考えで行動できないのだから、みんなに合わせましょう。そのみんなって、何だろうね?」

 坂手は生徒の反応を読み取っていた。

「この5人だけではないです。彼らの様子を知っていながら、見て見ぬふりの傍観者も同じです。この学校は、自分の考えで、正しい行動を出来る生徒を社会に送り出す。それが今後のこの学校の第一理念です」

 教室が少しざわつく。

「実は、この学校はある方がすで買い取っており、新理事長から私は全権限を委託されたAI教師です」

「ええ~、うそ!」

「マジか!」

 などなど、教室内がざわつく。

 坂手はポケットから小さな何かを取り出し、教壇の上に置いた。

「これは、AIチップです。5人分あります。このチップを5人の体を借りて埋め込みます。そうすると、脳はAIが支配して、いじめはしてはいけないと認識しており、その人は良いAI人間になります」

 クラス委員の山崎が言った。

「先生、それって、その5人はどうなるんですか?」

「体は残りますが、実質的な脳はAIが乗っ取ります。新たに生まれ変わるので、まあ死ぬようなものですね」

「なんだよ、それ!」

「そんなこと、許されないぞ!」

 口々に声を荒げる生徒たち。勿論5人グループは気付いている。チップが5つ。要するに埋め込まれるのは自分たちだ。そんなこと出来るわけないと思うが、これは一体何なんだ!山田は怒りに震えた。

「みなさん、この学校はモデル校に認定されています。日本政府からです。今から、呼ばれる5人にはチップが埋め込まれます。この場にいる他の生徒さんは、このことを口外した途端、同じようにチップが埋め込まれます。逃げられません。気付いていないようですが、もうすでに校舎内は監視されており、死角はありません。複数のAI教師がすでに動いています」

 坂手の言葉が終わらないうちに小野寺が教室を飛び出そうとしたが、すでに体は動かなかった。椅子から立ち上がれず、目以外動かせる部位は無かった。もう、声も出せない。

 

 

 春。

 新入学生が久しぶりに前年度の入学生徒数を上回った。

 新入学生の母親たちが立ち話をしている。

「この学校、全くいじめがないんですってね。安心だわ」

「本当に。うちの子中学時代いじめで、親も苦労したから」