カウンセリングのビタミンC

生きると言う格闘技に一休みを。

ちょっと怖い話 その2 女子の好感度

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 金曜日。

 とある高校の2年5組の教室。みなみが入ってきた。

「おはよう」

 ちょっとはにかむような笑顔で、男子に挨拶するみなみ。男子に一番人気の女子だ。その様子を6人グループの女子が見ている。互いに目配せをする6人。

「みなみ、おはよう!って、女子にも言ってよ」

 6人グループの一人、優樹が大きな声で言った。優樹はグループのリーダー的存在で、クラスの中でも一目置かれていた。中学時代はヤンキーだったようで、姉御肌で裏表のない性格だ。その優樹の声にみなみが反応する。

「ああ、優樹おはよう。ごめんね、見えなかったの」

 みなみの言い方は、決して嫌な言い方ではない。だが、そう言う部分も他の女子たち、特にこの6人グループは良く思っていない。男子に人気のみなみ、クラスで中心人物の優樹。相対する二人はある意味クラスの双璧だ。

「また、かわい子ぶっちゃって」

 優樹が言うと、他のメンバーもうなずき、言葉を続ける。

「男子って、本質が見えてないんだよね」

 美憂が言った。

「裏では何言ってるかわかんないよね」

「やっぱ、そうなのかな。怖い」

 由香とさくらが言った。

「ホント。うちの彼氏もみなみ可愛いって言うし」

 涼香が言うと、その言葉に奈々子が何かを思い出したようだった。

「そう言えば、涼香。・・・後でちょっと話あるわ」

「えっ、ああ。後の方が良い?」

「うん。2人の方が良いかな」

 その言葉に優樹が食いついた。

「ちょっと、うちらに内緒で話ってなにさ?」

「う~ん、海斗のこと。涼香にだけ教えれば良いかな」

 困ったように奈々子が言った。

 海斗とは、隣のクラスにいる涼香の彼氏だ。涼香が1年の頃から好きで、勇気を出して告白し、2カ月前から付き合いだした。まだお互いの家に行ったことは無いし、外でのデートも2回だけ。LINEのやり取りと、たまに近くの駅まで一緒に帰るくらいだ。

「海斗のこと?じゃあ、いいじゃん。みんな協力して涼香が付き合えるようになったんだし、みんなに話しなよ」

 優樹の言葉に奈々子は渋い顔をしたが、丁度先生が入って来たので、とりあえずみんな自分の席に着いた。

 

 昼休み。結局優樹に押し切られる形で、奈々子はみんなに話をした。

「大したことじゃないんだけど、昨日の開校記念日、海斗とみなみが一緒にモールで買い物してたんだよね」

 昨日は開校記念日で学校が休みなので、涼香は海斗にどこかに行きたいと言ったが、家族の用事があると言って、断られたのだ。

「えっ、うそ」

 涼香が言うと、優樹が声を荒げた。

「ちょっと、ちっとも大したことだよ!なんですぐ言わないの?」

「いや、一緒に買い物してたと言うか、モールで一緒にいたの見かけたって言うか。私もママと一緒だったから、2階から1階を歩く2人を見かけただけだから。たまたま2人も偶然会っただけかも知れないしと思って。だから涼香にそれとなく聞いてみようかなと思ったんだけど」

 奈々子は、優樹に知れると面倒なことになると分かっていたので、失敗したと思った。

「わかった。あたしがみなみに言ってやるわ」

 優樹はそう言うと、すぐにみなみを引っ張ってきた。

「ちょっとあんた。昨日海斗とどこ行ってたのさ?」

 突然呼びつけられたみなみは困惑した表情で答えた。

「昨日は・・」

 みなみはちらっと涼香の方を見た。涼香は泣き出しそうな顔だ。

「モールに買い物に行ったら、偶然海斗に会って。それで、ちょっと話しただけだけど」

 優樹は腕組みしながら、みなみを斜め上から見下げる。

「へ~、偶然。あんたさ、海斗と涼香が付き合ってるの知ってんでしょ!人の男にちょっかい出すの止めなよね」

 みなみは、涼香の方を再びちらっと見た。涼香はまともに、みなみを見ることが出来ない。みなみと海斗は小・中も同じ学校で元々仲が良かった。家も近いので一緒に帰ることもあったし、海斗はみなみのことを、可愛いと言っていたので、涼香にとってみなみは脅威だった。もし、みなみの言うように、偶然会ったにしても、せっかくの学校の休みに2人で出かけたかった涼香にとって、海斗が家族の用事と言って涼香の誘いを断ったのもショックだった。海斗が一人でモールに行っていたなら、涼香に嘘をついていたことになる。

「涼香。ホント海斗とは偶然会ったの。ホントだよ。海斗、あの後授業終わりのお兄ちゃんと待ち合わせしてるって言ってたから」

 みなみが涼香に向って言った。

 確か海斗の兄は、大学2年生だ。みなみの言葉を涼香が信じようとした時、優樹がまたまくしたてた。

「また、適当な嘘ついてんじゃないよ」

「嘘じゃないって。ねえ、涼香。本当に私と海斗は何でもないから」

 チャイムが鳴り、昼休みは終了した。奈々子は、不用意に口にした自分を責めた。一方、優樹は自分が悪を懲らしめている気分でいた。

 

 土日は、6人グループの誰かと遊ぶことが多いが、今週は珍しくみんな用事があって駄目だった。土曜日、優樹は暇つぶしにみなみにLINEを送り満足していた。

 

 月曜日の朝。5年2組の教室。

「おっはよー」

 優樹が元気よく教室に入り、すでに席に座っていた美憂に話しかけた。

「あ、おはよう」

 美憂の返事はそっけなかった。美憂はすぐに隣の席の男子と話し始めた。いつもは優樹が教室に入ると、グループのみんなが近寄って来るのだが、今日は誰も近寄らなかった。由香と奈々子、さくらが3人で喋っており、涼香はみなみと話している。

「なんか、変じゃね」

 優樹が独り言のように言ったが、誰も反応しなかった。休み時間も何となく、よそよそしさを優樹は感じていた。

 昼休み。業を煮やした優樹が言った。

「ねえ、ちょっと何なのさ。さっきから、あたし無視してさ」

 優樹は不満をぶちまけた。みんな顔を見合わせている。

 涼香が口を開いた。

「優樹、土曜日にみなみにLINE送ったじゃん。あれ、ひどくない?」

「えっ?何のこと?」

「とぼけないで。土曜日、みなみが海斗の家にいる時にLINEが来て」

「意味わかんない。どう言うこと?みなみが海斗の家にいたんじゃ、やっぱみなみと海斗が怪しいじゃん」

「あのね、みなみは海斗のお兄ちゃんと付き合ってるんだって」

 さくらが言うと、続けて奈々子が言った。

「私もこの前は、海斗とみなみのこと話しちゃって、涼香と海斗がおかしなことになったらどうしようって、責任感じてたんだよね。だから、金曜日に海斗に聞きに行ったの。そしたら、みなみは海斗のお兄ちゃんに、海斗は涼香へのサプライズのプレゼントを買いに行ってたんだって」 

「えっ、そうなの?」

 意外な展開に優樹は驚いた。そして慌てて言葉を続けた。

「でも、でもさ。だからってわざわざ海斗にLINE見せなくてもいいんじゃない?」

 優樹の言葉に涼香が反応した。

「みなみは、そんなことしないよ。優樹がみなみにLINE送った時、私もいたの。4人で海斗の家にいたの。みなみはLINE見てすぐスマホ閉じたんだけど、様子が変だからって海斗のお兄ちゃんがみなみのスマホ見て。したら、あんまりひどい内容だって、海斗に見せて、それで」

「えっ?」

 動揺する優樹。

「結局、優樹って私のことバカにしてるんだよね。私だけじゃない。海斗のこともバカにしてる。みなみのことだって、男子にもてるみなみに嫉妬してるだけじゃん」

 強い口調で涼香が言った。

「そうなんだよね。なんだかんだ言っても、みんな、みなみみたいに男子に可愛いって思われたいんだよね。みなみは別に悪いことしてないし。今まで優樹に言われて、私たちみなみのこと嫌いって思ってたけど、本当は嫌いじゃないもん」

「私も。優樹みたいなヤンキーキャラより、みなみみたいな可愛い女子キャラの方が得だしさ」

 由香と美憂が言った。

「なんなのさ、あんたたち。もういいよ。友だちじゃない」

 そう言うと優樹はみんなから離れて行った。

 

 2週間後。

「もう2週間も学校来てないけど、優樹どうするんだろう」

 さくらが言った。

「ホント。そう言えば、優樹中学の頃、嫌いな子をいじめて不登校にしてやったっ言ってたよね」

 奈々子が続けた。

「今じゃ、自分が不登校か。あれ、こう言うの何て言うんだっけ?四字熟語で」

 涼香が聞いた。

「因果応報」

「さっすが、みなみ」

 涼香の隣には、みなみがいた。

 

 みなみは、心の中で思った。絶対このLINEは消さない。

優樹:あのさ、海斗のことだけどさ マジ人の男取るの止めな!

   ホントは海斗のことなんか好きじゃないのバレバレだし

   人の幸せ壊すのが楽しいんだろ

   趣味わるっ!

   涼香にとっては やっと出来た彼氏なんだよ

   涼香はみなみみたいに 男子にもてないし 可愛くないからさ

   そんな子の男とって 何が面白いのさ

   男の人気とろうとかわい子ぶるのはもうやめろ!

   男子が言うほどあんた可愛くないし

   海斗だって 大したことないし あたしなら彼氏にしない

   だから 海斗とってもあたしに勝ったことになんないからさ

   わかったらおとなしくしてなよ

   じゃないと クラス総出で追い出すよ

    

優樹:既読スルーしてんじゃないよ!

    

 

 人はそう簡単に変わらない。だが、周囲の評価はちょっとしたことで180度変わることがある。特に女子の好感度は。